「新コメットさんの日記」第1章「星国のバトントワリング大会」
-その２―「ショートプログラム」
コメットさん：21才。ハモニカ星国の王女。ハモニカ星国に留学している
剛君、ネネちゃんのお世話をするために星国に滞在中。第1500回バトン
トワリング大会ハモニカ星国代表チームリーダー。
コメットさんのお母さん：ハモニカ星国の王妃。ハモニカ星国代表チームメンバ
ー。
コメットさんのお父さん：ハモニカ星国の王様。
クラリス女王：21才。ハモニカ星国内最大の小星国バイオリン星国の女王。コメ
ットさんの親友。ハモニカ星国代表チームサブリーダー。
剛（ツヨシ）くん：12才。景太郎パパ達のふたごの兄。ハモニカ星国に留学中。
ハモニカ星国代表チームメンバー。
寧々（ネネ）ちゃん：12才。同じくふたごの妹。同じくハモニカ星国に留学中。
ハモニカ星国代表チームメンバー。
ユキちゃん：1１才。輝きの求道者の娘。バトントワリング大会地球予選決勝で
スピカおばさまの娘のあおいちゃんを破ってハモニカ星国代表チームに選ばれ、
バトントワリング大会に参加するために星国に滞在中。
メテオさん：21才。カスタネット星国の王女。王宮のあるカスタネット星
で行われるバトントワリング大会に参加するためカスタネット星国に滞在
中。カスタネット星国代表チームリーダー。
ヤベツさん：21才。メテオさんのふたごの妹。バトントワリング大会に参
加するため地球留学から一時星国に戻って来た。カスタネット星国代表チ
ームサブリーダー
メテオママ：カスタネット星国の王妃。カスタネット星国代表チームメンバー。
への５号（羽仁神也）：への６号の兄。カスタネット星国代表チームメンバー。
への６号（羽仁君也）：１２才。への５号の弟。カスタネット星国代表チームメン
バー。
プラネット王子：タンバリン星国の王子。２３才。ケースケのライバル。バトン
トワリング大会に参加するために星国に滞在中でタンバリン星国代表チームリー
ダー。
ミラさん：20才。カロン君の姉。プラネット王子に仕えている。バトントワリン
グ大会に参加するために星国に滞在中でタンバリン星国代表チームサブリーダー。
カロン君：16才。ミラさんの弟。バトントワリング大会に参加す�驍ｽめに星国に
滞在中でタンバリン星国代表チームメンバー。
Tomさん：30才。第17回バトントワリング世界大会成年男子の部優勝者で第
1500回トライアングル星雲バトントワリング大会審査委員長。
2009
5/5 8:30
いよいよ大会当日となった。バトントワリング大会は前年度優勝したカスタネ
ット星国のカスタネット星のシュテルン城（メテオママの居城：アトランティワ
ナ城とほぼ同じ大きさで陸上にある。）内の特設ステージ（１万人収容）で行われ
ることになっていた。大会の様子はトライアングル星雲中に放送され、毎年視聴
率はほぼ１００％、ハモニカ星国だけでものべ約５京人（地球の人口の約1000
万倍）が見ている計算だ。
わたし達代表チームを乗せた星のトレインはカスタネット星へ向けて小ワープ
した。
約１０分後、小ワープがあけると正面にカスタネット星の強い輝きが見え、そ
れが少しづつ大きくなっていた。
（コメット様。カスタネット星まで後約４分です。）
「ありがとう。ネコ車掌」
「ワー。キレイ～☆☆。コメットさん、私カスタネット星国に行くのは初めてだ
けど、ハモニカ星国とまた違った輝きでキレイだね」
「ツヨシ君もカスタネット星国は初めてだけど、キレイだと思う」
「ネネちゃんも（カスタネット星国に行くのは）初めてだけど、キレイだと思う
わ」
「そうだね。でもエメラルドグリーンに輝くシュテルン城、そして７色に輝くア
トランティワナ城はもっとキレイだよ」
「コメットさん、私、パパが行ったアトランティワナにも行ってみたい～☆」
「ユキちゃん、シュテルン城からアトランティワナまでは近いから、大会が終わ
ったら行けると思うよ」
それから間もなく、カスタネット星の姿が大きく広がった。
「コメットさん、あの緑色の光の帯は何？」
「あれが、アトランティワナのバリヤーを維持している星力だよ」
「ふ～ん。―あれ、どうしたの？コメットさん」
「ユキちゃん、コメットは『あの時のこと』を思い出してるのよ」
そう母は言った。
「ユキちゃん、ごめんなさい。母の言うとおりよ」
その時わたしは７年前のことを思い出していた―
それから間もなく、星のトレインはシュテルン城の前に停止した。わたし達
が星のトレインを降りると、
「コメット！わがシュテルン城へようこそ！待ってたわよ。控え室はこっ
ちよ」
との声が響いた。
「メテオさん」
とわたしが言った時、周りをメモリーボールを持った記者達に囲まれ、マイクを
向けられた。
「ハモニカ星国代表チームリーダーのコメット王女ですね。現在のチームの状態
は―ウワ！」
「チョット、チョット、あんた達、試合前の取材は禁止って言ってたでし
ょ！コメット、早くこっちへ！」
とメテオさんが記者達とわたし達の間を緑色のバリヤーで隔てて言った。わたし
達は急いでラバボーとラバピョンに乗り、ムークさんに乗ったメテオさんのいる
所に向かった。
「シュテルン！」
メテオさんがバトンをふるとわたし達が入れるサイズの星のトンネルの入り口
が顔を出した。わたし達はメテオさんを先頭に中に入っていった。星のトンネル
を出るとそこは城の中だった。
「ここは関係者以外立ち入り禁止だから大丈夫よ。この中が控え室兼練習
場よ。１０時５分前になったら係りの者が会場に案内するから、それまで
はここにいて」
「ありがとう。メテオさん」
「さっきはごめんなさい。万全の体勢を敷いていたはずだったのに、一瞬
のスキをつかれたわ。開催国の王女として恥ずかしいですわ―でもこの後
の勝負は別よ。この大会でも私達が絶対優勝してみせますわったらみせま
すわ。オーホッホッホホー。じゃあネー」
「メテオさん、すごい自信だね。何かあるのかな」
「メテオさんはいつもああだから、気にすることないと思うよ」
「そうかな～私、初めて会ったけど、もしかして―」
「何、ユキちゃん？」
「イエ、何でもありません―」
「あ、もう後１時間ないよ。練習しよ」
最後の練習が始まった―
ここでトライアングル星雲バトントワリング大会の優勝決定方法について説明
しよう。この大会には公平をきするため、各星国から２人づつ、計６人の審査
員と地球からの審査委員長の合計７人の審査員がテクニカル、アーティス
ティックポイントそれぞれ１０点満点で採点を行い、最低と最高をカットし
た５人の合計点で優勝を争う。そしてショートプログラムは１００点満点、
フリースタイルは合計点を２倍にした２００点満点であり、この２つを合
計した得点が最も高いチームの優勝となる。なお、同点の場合はフリース
タイルの点が高いチームの優勝となり、それでも同点の場合はカットした
点も含めた合計点の多いチームの優勝となる。ちなみに地球で行われるバト
ントワリング世界大会のチームの決勝は同じ３チームで争われ、テクニカル、ア
ーティスティックそれぞれ１０点満点で採点を行い最高と最低がカットされるが、
審査員の数は１０人で、そのうちの８人の平均点を出し、それを0.75倍して準
決勝の点を0.25倍したものとの合計点（１０点満点）で優勝を争う。そして星
国との最大の違いはショートプログラム等の区別はなく、演技時間は5分以内で
あることである。星国のバトントワリング大会ではショートプログラム3位から
の逆転も可能であり、ショートプログラムとフリースタイルの間に30分間の休
憩があるので演技内容を変更するなど微妙な駆け引きも可能で、地球のものより
観る者を意識した、よりスリリングな形式になっていると思われる、既に1500
回を数え、トライアングル星雲内で20京人近くが観ていることを考えるとなる
ほどと思う。
「ハモニカ星国代表チームの皆様、会場まで御案内いたします」
「みんな、用意はいい、じゃあいくよ」
「ハイ！」
わたし達は会場に向かった。
10:00
わたし達が会場の入り口に着くと、中は既に超満員で熱気が伝わってきた。正
面には審査員の席があった。
「皆さん、それでは、これから第1500回トライアングル星雲バトントワ
リング大会を開催します！選手入場！」
との司会者の声に従って、タンバリン、ハモニカ、カスタネット各星国の代表チ
ームが大歓声の中、黄色、ピンク、緑のスポットライトを浴びつつ３つの入り口
から同時に入場し、審査員席の前に並んだ。
「それではまず、各星国代表チームのメンバーを紹介します。最初は前年
度3位のタンバリン星国代表チームリーダー、プラネット王子！」
「得意ワザはティンクルジャンピングアームロール前宙・ダブルブライン
ドキャッチ（さし絵参照）です！」
この技はツヨシ君の得意技（ティンクルジャンピングアームロールダブル）と
基本的には同じだが、最初にジャンプした後前宙をして分離させたバトンをつか
み、着地までにアームロールをし、しかも最後まで目を閉じたまま行う、という
王子にしか出来ない必殺技だった。
王子がこの技を「目を開けたまま」やって見せると、場内が湧いた。
「次はタンバリン星国代表チームサブリーダー、ミラさん！得意技はティ
ンクル8ダブル・ウオークオーバー（さし絵参照）です！」
この技はクラリスの得意技（ティンクル8ダブルスペシャル・ウオークオーバ
ー：その１の挿し絵参照）で最後にバトンを一つにせずにつかむもので、クラリ
スの得意技より少し難度は落ちるものの、高度な技だった。
「次はタンバリン星国代表チームメンバー、ミラさんの弟のカロン君！得
意技はティンクル8ダブルスペシャル・エルボーポップ（さし絵参照）で
す！」
この技は３つに分離させたバトンを一つはエルボーポップ（ひじまでエルボー
ロール（腕を９０度曲げて肩とひじの中間から手首までバトンを移動させる）さ
せたバトンをひじで空中に投げ上げる）させ、残りの２つはそれぞれ空中で８の
字を描かせてエルボーロールさせている手で一つにしてとり、反対の手でエルボ
ーポップさせたバトンをつかむ、という、非常に高度な技で、これが出来るのは
他にはわたしとプラネット王子しかいなかった。
「次はタンバリン星国国内予選優勝者、ドラムス星国のジュピター王子！得意技はティンクルジャンピングエルボーポップダブル・レッグキャッチ
（さし絵参照）です！」
ドラムス星国はタンバリン星国内最大の小星国でジュピター王子はプラネット
王子とおない年で２人は比較的親しかったようだ。この技はツヨシ君の技で２つ
に分離させたバトンをエルボーポップし、着地直前にそれを足でキャッチ（レッ
グキャッチ）する、という、小星国の王子クラスの高度な技だった。また、この
技は着地時に足にかなりの負担がかかるので、わたしを含めて女性で出来る者は
おらず、これが出来るのは他にはプラネット王子しかいなかった。
「そしてタンバリン星国国内予選２、３位のプラネット王子親衛隊長、副
隊長！得意技は時間がないので省略～」
会場は笑いにつつまれた。
「次に前年度２位のハモニカ星国星国代表チームリーダー、コメット王
女！得意技はティンクル8トリプルスペシャル・3スピン！（その１参照）」
わたしが演技して見せると、大きな歓声があがった。とても気持ちよかった。
「次に、ハモニカ星国代表チームサブリーダー、ハモニカ星国国内予選優
勝者、バイオリン星国のクラリス女王！得意技はティンクル8ダブルスペ
シャル・ウオークオーバー！（その１参照）」
「それから、ハモニカ星国代表チームメンバー、ハモニカ星国の王妃様！
今回は初めて地球に行かれた時の服装で演技されます。得意技はティンク
ル０カルテットスペシャル・前宙（その１参照）です！」
ヤングバージョンに変身した母がスポットライトを浴びながら登場すると、会
場はどよめきに包まれた。しかし、演技が終了すると、嵐のような拍手が鳴り響
いた。
「次に、現在地球からハモニカ星国に留学中の、ハモニカ星国代表チーム
メンバー、藤吉ツヨシ君！得意技はティンクルジャンピングアームロール
ダブル（その１参照）です！」
「次に、ツヨシ君のふたごの妹で同じくハモニカ星国に留学中の、ハモニ
カ星国代表チームメンバー、藤吉ネネちゃん！得意技はティンクル8ダブ
ルスペシャル・側転（その１参照）です！」
「そして地球予選優勝者で輝きの求道者さんの娘のユキちゃん！得意ワザ
はティンクル８ダブルスペシャル・１スピン（その１参照）です！」
ユキちゃんが演技してみせると、拍手が沸き起こった。
「そしていよいよ次は第1499回トライアングル星雲バトントワリング大
会優勝チーム、わがカスタネット星国代表チームリーダー、メテオ王女様
です☆☆！！」
との司会者の声の後、緑色のスポットライトを浴びたメテオさんの姿がステージ
中央に現れると、会場はものスゴイ歓声に包まれた。
「得意技はもちろん、ティンクルスーパーダブルスペシャル・8カルテッ
トウオークオーバー＆ばく転（さし絵参照）です！」
この技はバトンを４つに分離させた直後、自分の分身を出し、一人が２本のバ
トンを8の字に動かしつつウオークオーバーして頭の上で一つにして掴み、もう
一人が残る２本のバトンを8の字に動かしつつ、ばく転をして頭の上で一つにし
て掴み、最後に２人が一人になるという、メテオさんとヤベツさんの必殺技だっ
た。なお、大会の規定上、分身を出せるのは１チーム２人までで、かつ、演技終
了時までに本人と統合することとなっていた。
メテオさんを乗せた半径５m程の台がせり上がり、その上で２人のメテオさん
の演技が決まると、会場は一瞬静まりかえった後、嵐のような拍手が数分間鳴り
止まなかった。
「ス、スゴイ―」
思わずわたしはそうつぶやいていた。
「いや～さすがはメテオ様、すばらしい演技でしたね。次はメテオ様のふ
たごの妹であられるカスタネット星国代表チームサブリーダー、ヤベツ王
女様です☆！！得意技はメテオ様と同じですが、アガペードレス＆バトン
で行って頂きます！」
との声の後に登場したヤベツさんは先程の台の上で黄緑色のスポットライトを浴
びながらラブリンバージョンと似てはいるがオレンジと黄色を基調としたドレス
姿（さし絵参照）
で演技を行った。こちらも先程に次ぐ大きな拍手に包まれた。ネメシスさんの「い
のちの最後の輝き」を受けて生まれ変わったヤベツさんはメテオさんにとてもよ
く似ていたが、顔がメテオさんより若干小さく、髪の毛の色がやや明るくて全体
的にメテオさんより柔らかい印象を与えていた。
「そして次は、カスタネット星国代表チームメンバー、わがカスタネット
星国の王妃様です～☆！！得意技はティンクル8カルテットスペシャル・2
スピンです！」（さし絵参照）
との声と共に威厳のある、重厚なドレス姿の王妃が登場すると会場は静まりかえ
った。そして存在感のある演技が終わるとこれまた嵐のような拍手が会場内に響
き渡った。この技は分離させるバトンの数が４本となり、他にはわたしの母しか
出来ない非常に高度なものだった。台の上で演技したのは�､妃も含めて３人だけ
だった。
「いや～王妃様らしい、素晴らしい演技でしたね。次は地球から来た、へ
の5号こと信也君！、得意技はティンクル11ダブルスペシャル・レッグ
キャッチです！」(さし絵参照)
この技はあおいちゃんの技で最後にバトンを一つにし、直後にバトンを手では
なく、足ではさんでとり、回転はしないもので、今回出場するメンバーの中では
最も難度が低かった。しかし、彼が演技を終えると、大きな拍手に包まれた。彼
の顔の輝きがとても強いこともあるのだろう。わたしから見ても、とても幸せそ
うだった。それはそうだろう。あこがれの「メテオさま」と一緒にずっと練習す
ることが出来て、今その成果をメテオさんや他の人達に見せられるのだから…彼
は今最高の気分にちがいない、そうわたしは思った。
「次は同じく地球から来た、への5号の弟のへの６号ことパニッ君！、得
意技はティンクル11ダブルスペシャル・レッグキャッチ・1スピンです！」
この技は先程の技でバトンをつかむまでに１回転するもので、先程よりやや難
度が高かった。
「そして最後はカスタネット星国国内予選優勝者、カスタネット星国親衛
隊長！、得意技はティンクル６６ダブルスペシャル・２スピン（さし絵参
照）です！」
この技はゆきちゃんの得意技とほぼ同じ難度だった。
「以上で各チームのメンバーの紹介を終わります。次に今大会の審査員を
紹介します。まずは審査委員長のTomさん、地球から来て頂きました。地
球で行われた第１７回バトントワリング世界大会成年男子の部優勝者でも
あります。次にタンバリン星国から審査員のガニメデ裁判官（「星の絆２」
より）、タンバリン星国国内予選第４位のビーナスさん。それからハモニカ
星国から審査員のマーズ輝き自然度チェックビトの長（「星の絆２」より）、
リゲル長官（「星の絆２」より）。そしてわがカスタネット星国から審査員
のエウロパ教授（「いのちの最後の輝き」より）、ジュノーさん（「いのちの
最後の輝き」より）。以上の７名です！厳正な審査をよろしくお願いいたし
ます」
審査員達が軽くおじぎをすると、大きな拍手に包まれた。
「それではいよいよここでわがカスタネット星国の王妃様に本大会の開会
を宣言して頂きます」
「それではここに第１５００回トライアングル星雲バトントワリング大会
の開会を宣言します」
静まりかえった会場に王妃のリンとした声が響き渡った。そして次の瞬間、会
場は歓声に包まれた。
「それでは次に各星国代表チームリーダーによる選手宣誓を行って頂きま
す！」
わたしは急いで中央のステージに向かった。それからわたしとメテオさん、プ
ラネット王子を乗せて台が１０m程せり上がった。メテオさんを中心にわたし達
は３つのバトンを合わせてこう言った。
「私達は日頃の練習の成果を十分に発揮し、正々堂々競技することをここ
に誓います！２００９年５月５日。
第１５００回トライアングル星雲バトントワリング大会カスタネット星
国代表チームリーダー、メテオ。
同じくハモニカ星国代表チームリーダー、コメット。
同じくタンバリン星国代表チームリーダー、プラネット」
宣誓が終わると会場は大歓声に包まれた。
「皆様ご静粛に！さていよいよ皆様お待ちかね、ショートプログラムの開
始です！！
最初に演技するのは前年度３位のタンバリン星国代表チームです！曲は『トゥインクルスター』（コメットさん☆ベストソングコレクションの６
番目の曲：全体は約３分４５秒―このうち最初の９０秒）です！！」
皆がかたずを飲んで見守る中、ついにタンバリン星国代表チームの演技が始ま
った。
曲は７つの部分に分かれており、最初の３つでエルボーロール、ウオー
クオーバーなどの星力を使わない基本的な技を全員でした後、４番目にツ
ヨシ君の得意技であるティンクルジャンピングアームロールダブルを全員
で行うと、拍手が湧き起こった。このチームはミラさん以外は全員男性で
あることから、ロール系の技やレッグキャッチ等の力技が多かった。５、
６番目は男性５人とミラさんに分かれて演技を行った後、最後にそれぞれ
の得意技を行った。ちなみにプラネット王子親衛隊長、副隊長の得意技は
ティンクル８ダブルスペシャル・レッグキャッチだった。これはユキちゃ
んの得意技で最後はバトンを足でキャッチし、回転はしないもので、これ
も小星国の王子クラスといわれるかなり高度な技だった。プラネット王子
のバトンはアガペーバトンに変化し、体は金色に光っていた。王子を中心
にそれぞれの得意技がピタリと決まり、最後は全員がサリュートの姿勢で
しめると、嵐のような拍手が沸き起こった。
（え？）
わたしはちょっと驚いた。見たところ目立ったミスはなかったものの、
自分では「まあまあの演技」だと思っていたからだった。
「これはスゴイ！タンバリン星国らしい、力強い演技でしたね。それでは
まず、テクニカルポイントをどうぞ～」
「４９点、これは高得点です！続いてアーティスティックポイントをどう
ぞ！～」
「５０点、満点！そして合計は９９点！！これはいきなり高得点で
す！！」
会場のタンバリン星国代表チーム応援団がいると思われる一角から大きな歓声
が起こった。（え～？え～！？）
「コメットさん、どうしたの？」
「あ、ユキちゃん、いや、予想以上に高い点だったから―」
「そんなことないと思うけど―だってプラネット王子もカロンさんもミラ
さんも、みんなブラインドキャッチしてたし、ミスらしいミスはほとんど
なかったわ」
「え、あ、そうだったけ～。あ、そんなことより、次はわたし達の出番よ、
みんな気合いを入れて行こう！」
「オー！」
しかしわたしの気持ちは少し乱れていた。決してタンバリン星国代表チ
ームを甘く見ていたつもりはないけれど、後から考えると、愛力を使える
のは王子だけだし、自分を含めて４人が使えるこのチームが普通にやれば、
十分勝てる、と無意識のうちに思っていたからだったと思う。
「それでは次に、前年度第２位のハモニカ星国代表チームの登場です！曲
は『ミラクルパワー～スターダストバ～ジョン～（TVサイズ）』です！」
わたし達はさっそうとステージ中央に向かい、それぞれの位置についた。会場
内は思ったより広く見えた。さすがに少し緊張する。
「アテンション！幾千億の星の子達。キラ星の輝きを。そしてあまたの力
を。どうかわたしの星力に変えて。エトワール！」
ついに演技が始まった。まずはトス１スピン（バトンを分離させずに投
げ上げ、つかむまでに一回転する）、アームロール、ウオークオーバーの、
星力を使わない３つの技を全員で行い、４番目にわたしと母、クラリス、
ユキちゃんの４人がアガペー変身（ノーマルバージョン）した後、ユキち
ゃんの得意技を全員で行った。ここまでは順調だった。わたしは少し落ち
着きを取り戻していた。
5番目と６番目はA,B 両グループに分かれて演技をした。Aグループは
わたしを中心にそれぞれティンクル０ダブルスペシャル・ウオークオーバ
ー（クラリスの得意技でバトンを８の字ではなく、０の字に動かすもので、
前者よりやや難度が低い）、ティンクル8ダブルス?yシャル・ウオークオ
ーバー（クラリスの得意技：その１参照）を行った。一方、Bグループは
ユキちゃんを中心にそれぞれティンクル０ダブルスペシャル・1スピン（ユ
キちゃんの得意技でバトンを８の字ではなく、０の字に動かすもので、前
者よりやや難度が低い）、ティンクル8ダブルスペシャル・1スピン（ユキちゃんの得意技：その１参照）を演技した。各グループ間、及び各個人の
息もここまでは練習通りピッタリだった。しかし、最後に思わぬ落としが
待っていた。最後はそれぞれの得意技をするのだが、3本のバトンを一つ
にする少し前、わたしの体に対して垂直に８の字を描かせていたバトンの
軌道がわずかにずれてしまった。わたしはとっさに軌道を元に戻し、何と
かバトンを一つにすることに成功した。あの練習の成果だった。他のメン
バーはミスなく技を成功させていた。最後に全員がサリュートの姿勢をと
ると、大きな拍手が沸き起こった。わたしはほっとした。
「ハモニカ星国らしい、素晴らしい演技だったと思います。それでは審査
員の皆さん、まずテクニカルポイントをお願いします！」
「49点、タンバリン星国と同じ、高い得点です。ん？しかしTom審査委
員長は8点と少し厳しい点をつけています。しかしこれはカットされていますが―」
「え！」
思わずわたしがそう言ってTomさんの方を見ると、とても厳しい顔つきをし
ていた。
「続いてアーティスティックポイントをどうぞ！～」
「49点、ということは合計は98点！タンバリン星国に及びません！これ
はこの後のわが星国代表チームの演技が注目されます！」
わたしが再びTomさんの方を見ると、向こうも気付いたようだった。一瞬向
けられた顔は
「コメットリーダー。どうしたのです。いつものあなたらしさがありませんよ。
最後の演技でのミス、私は見のがしてはいませんよ、しっかりして」
と言っているように思えた。Tomさんは９点をつけていた。
「コメット、どうしたの。演技に少しあなたらしさがなかったわよ。でも最後は
よくカバーしたわね」
「お母さま、ごめんなさい。でもあの練習のおかげで、何とかまとめられたわ」
「コメットさん、タンバリン星国に負けちゃったね」
「ええ、ツヨシ君。でもフリーがあるわ。さあ、次はメテオさん達の演技よ」
「皆様お待たせしました！それでは次に、いよいよディフェンディングチ
ャンピョン、第1499回トライアングル星雲バトントワリング大会優勝チ
ーム、わがカスタネット星国代表チームの登場です！！！」
会場はすごい歓声に包まれた。そして「星のパレード（TVサイズ）」（そ
の1より）にのせてキビキビした演技が始まった。最初の3つはわたし達
と同じ技だったが、技のキレと速さはわたし達を上回っていた。そして4
番目に全員であおいちゃんの得意技をした時に、わたしは思わず、
「え？まさか―」
と言ってしまった。
メテオさんもアガペー変身（ノーマルバージョン）していたからだった。
最初わたしはヤベツさんが分身を出したのかと思ってしまったが、そこ
には6人しかいなかった。
（メテオさんも愛力を使えるなんて―）
わたしはショックを受けた。分身を入れると、カスタネット星国代表チ
ーム（さし絵参照）で愛力を使えるのは5人となり、わたし達を上回るか
らでもあった。
5番目はメテオさん、ヤベツさん、王妃と残りの3人ずつに分かれ、前
者はティンクル8トリプルスペシャル1スピン（さし絵参照）後者はへの
5号の得意技を行った。そして6番目に全員でそれぞれの得意技を行った。
２人のメテオさん、ヤベツさんの操るバトンがオレンジ色の軌跡を残しな
がらキレイに４つの8の字を描くと、
「スゴイわ―。やっぱりメテオさんは愛力を使えるようになっていたの
ね」
とユキちゃんが言った。
「そうだね」
思わずため息が出る程素晴らしい演技だった。
7番目は王妃を中心に5人が星形に並び、全員でティンクル０ダブルス
ペシャルウオークオーバーを行った。そして最後はスターイリュージョンという集団技を行った。 これはさし絵のように星形に並んだ５人が左手でそれぞれバトンを左隣に投げ、右隣の相手から投げられたバトンを右手で
受け取ると同時に左手で中心の王妃からの５つに分離したバトンを受け取
る、という高度な技だった。10本のバトンが緑色に輝きながら星形を描く
と、会場はものすごい歓声と拍手に包まれ、メテオコールまで聞こえた。
完璧な演技だった。チーム全員が光り輝いていた。
「いや～スゴイ、スゴすぎる！！さ、さすがディフェンディングチャンピ
ョン、完璧な演技でしたね。それでは審査員の皆さん、まず、テクニカル
ポイントをお願いします！―10点、10点、10点、―満点、全員が満点で
す！！それでは次にアーティスティックポイントをどうぞ！～10点、10
点、10点、10点、―これも全員が満点、合計100点！ショートプログラ
ムはカスタネット星国代表チームが１位となりました！！！しかも審査員
全員が満点をつけています。！！」
会場内の歓声が一段と大きくなった。―メテオさんは手をふってこれに
応えていた。そしてちらりとこちらの方を見た。その目は明らかにこう言
っていた。
（どう？コメット！わたくし達の『完璧な』演技は。愛力を使えるのはあ
なただけじゃなくってよ。これで私達のチームの優勝は決まったようなも
のね。オーホッホッホッホッホー）
（完敗だ）そうわたしは思った。
「以上を持ちまして、ショートプログラムを終わります。この結果、１位
カスタネット星国、２位タンバリン星国、３位ハモニカ星国となりました。
ここで３０分間の休憩に入ります。フリースタイルは３位のハモニカ星国
代表チームからの演技となります」
「コメットさん！」
「ネネちゃん、そしてみんなごめんなさい。みんなは頑張ったのにわたしのミス
のせいで３位になってしまって―」
「コメット。あなたのせいじゃないわ。私達みんなの演技の結果ですもの。元気
を出して」
「クラリス。ありがとう」
「でもコメットさん、このままじゃ、僕達どんなに頑張っても優勝出来ないよ」
「どうして？ツヨシ君」
「だって、メテオさん達がさっきみたいな演技で次も満点だったら絶対に追いつ
けないもん」
たしかにそうだった。それにフリーではわたし達が最初に演技しなければなら
ず、メテオさん達が有利なのは明らかだった。
「でも、私達はきっと優勝出来るわ」
「ユキちゃん！でもどうして？」
「だって『輝きの元である方』がさっき教えてくれたんだもの。『自分達の
演技をすれば、きっと優勝出来る』って」
「で、でも～」
そうツヨシ君は言ったが、
「ツヨシ君。私は『輝きの元である方』の言う事を信じるわ。そしてみん
なの輝きも―。自分では納得出来ないかもしれないけれど、年下だけど私
の言う事を、いえ、みんなの輝きを信じれる？」
「う～ん」とツヨシ君が考えている間に、信じられない事が起こった。
（コメット様、お久しぶりでございます。）
（え？あなたまさか死んだはずじゃ―）７年前、アトランティワナで死んだハ
ズのネメシスさんの声が聞こえて来たのだ。
（そうでございます。でも今はあなた様やヤベツ様、メテオ様などの
中に私の『いのちの輝き』が生きているのでございます。私は今とても幸
せです。）
（そう、それは良かった☆。でも今どうしてわたしのこころに話しかけている
の？）
（それは私もユキさんの言われる通りだと思うからでございます。申し上
げにくいことなのですが、コメット様、あなた様は先程はもっとご自分ら
しい演技が出来たはずだったと思います。もしかしたら、メテオ様達に勝
ちたい、という思いがおありになったからかも知れませんが―。どうかあ
なた様らしい演技をされ、あなた様の輝きを、そしてこのチーム全体の輝
きをそれを観る人々にお伝え下さいませ。）
「ネメシスさん、ありがとう。ユキちゃん、わたしはみんなの輝きを信じる
わ。だって、ネメシスさんがそう言うんですもの」
「エ？コメットさん、ネメシスさんとお話ししたの？」
「エエ」
「コメット。私もみんなの輝きを信じるわ」
「コメット、私もよ」
「お母さま、クラリス」
「ネネちゃんも、みんなの輝きを信じる」
「わかった。ツヨシ君も信じるよ」
―その時、何かが変わった―
「ユキちゃん、そしてみんな、ありがとう。―それじゃこれから、フリー
スタイルの練習をするよ」
「ハイI」
みんなの明るい声がこだました。
―その３へ続く―
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