新コメットさんの日記最終章「わたしの夢」その2「実技試験」後半

 

コメットさん:21才。ハモニカ星国の王女。雪ノ下保育園の星(年少)

組の見習い保育士。夢をかなえるために保育士試験に挑戦し、筆記試験に

合格する。

なつねさん:21才。雪ノ下保育園の宇宙(そら)(年長)組の見習い保育士。コ

メットさん、まきこさんと同じ専門学校のクラスメートだった。保育士試

験に挑戦し、筆記試験に合格。2才下の妹がいる。明るくて積極的。イラ

ストを描くのが得意。オースタラリアに移住した藤吉家の人々に代わって

コメットさんと一緒に住み始める。

まきこさん:21才。雪ノ下保育園の月(年中)組の見習い保育士。非常

に頭が良く、保育士試験筆記試験を試験会場トップの890点で通過。3

才上の姉がいる。13才から愛力スーパーバージョンを使う事が出来る。

なつねさんと共にコメットさんと一緒に住み始める。

春名さん:23才。横浜市港南区在住。港南台保育園の見習い保育士。コ

メットさんと同じ部屋で筆記試験に挑戦し、合格する。

優花さん:22才。春名さんと同じ港南台保育園の見習い保育士。

有希先生:32才。鎌倉市在住。雪ノ下保育園の星組の担任で主任保育士。

4年前に結婚し、3才の娘がおり、2006年4月から職場復帰。

橋本先生:43才。鎌倉市在住。鎌倉保育園副園長。実技試験絵画製作担

当試験官。

郁子先生:38才。鎌倉市在住。大船保育園園長。今年になって園長に抜

てきされ、その実績が認められて実技試験音楽担当の試験官にも選ばれる。

 

三島圭佑(ケースケ):23才。コメットさんの「星の恋人」。18才でライ

フセーバー試験に合格し、資格を得る。世界一のライフセイバーとなる夢

をかなえるためにオーストラリア・ゴールドコーストで修業中。

寧々(ネネ)ちゃん:12才。コメットさんがかつて地球でお世話になった

藤吉家の主人、景太郎パパ達のふたごの妹。ハモニカ星国での留学を終え、

鎌倉の家に戻るがその後オーストラリア・シドニー近郊に移住する。

剛(ツヨシ)くん:12才。同じくふたごの兄。同じくハモニカ星国での留

学を終え、鎌倉の家に戻るが、オーストラリアに移住する。

景太郎パパ:ツヨシ君、ネネちゃんの父親で建築設計士。一時帰国してい

たが、再びオーストラリアに移住。

沙也加ママ:ツヨシ君、ネネちゃんの母親。景太郎パパと共にオーストラ

リアに移住。

ラバボー&ラバピョン:コメットさんのお供&ペット

 

10/25 6:50

 いよいよ実技試験当日となった。いつもと同じに起きると、身支度を整

え、台所に行った。

「おはよ〜まきこさん、なつねさん」

「お早う、コメット」「おはよ〜コメット」

 台所で朝食の用意をしていた2人の元気な声が返ってきた。

「まきこさん、何手伝うことない?」

 わたしは今日の料理当番のまきこさんに尋ねた。この頃わたし達は家事

を料理や洗濯、掃除などに分け、それぞれに当番を決めて交代でするよう

にしていた。                                                                                                                  「ええ〜っ、パンをのせるお皿をとって」

「はい」

「ありがと」

 まきこさんはわたしが出したお皿にトースターで焼いたパンをのせると

言った。

「これをお願い」

 わたしは3つのお皿を順番にテーブルの上に置いた。

「コメット、こっちも頼むわ」

「ええ」

 わたしはなつねさんが入れた紅茶の湯気がたつコップをお皿のわきに置

いて言った。

「サラダが出来たわよ〜」

「ハ〜イ☆」

 とわたしは言って自分の分のサラダの入ったお皿を持ってテーブルの上

に置き、席に着いた。二人も自分のお皿を持って後に続いた。みんなが席

につくと、

「いたっだきま〜す」

の声と共に一斉に食べ始めた。

「ウウ〜ん、おいしいね」

「サラダもおいしいわ」

「ええ」

とまきこさんが言った後、なつねさんが

「いよいよね」

とわたし達を観ながらしみじみ言った。

「うん、がんばろう」

とわたしは言った後、うなずいているまきこさんを見ながら、ずっと気に

なっていることを聞いてみた。

「ねえ、まきこさん、『保育をするときにいちばん大切なこと』って何だと

思う?」
するとまきこさんは少し考えてから、

「それは、私達は子供達の成長をお手伝いするのが仕事だから、『子供達の

(本来)持っている輝きを妨げないようにすること』かな〜」

(まきこさんの言葉より)

と言った。

「私は『子供達の笑顔』だと思うわ。コメットはどう思う?」

となつねさんが聞いてきた。

「ウ〜ン。わたしもなつねさんと同じかな〜。こども達の笑顔を見るのが

一番嬉しいもの…」

 わたしは想いを巡らせながらそう答えた…

 

8:15 

 朝食を食べ終わるとわたし達はそろって試験会場の鎌倉女子学園大学鎌

倉キャンパスに向かった。鎌倉駅を出て森の中の小道を進んで行く。森の

中はしっとりとしていて、少しひんやりする。前後には受験生と思われる

若い女性達が数人ずつ歩いていた。

「春名さ〜ん、おはよ〜」

 わたしは30m程前を歩いていた見覚えのある受験生に声をかけた。

「おはよう、コメット。久しぶりね。あ、こちらは優花さん。私の同僚よ。

私と違ってとても優秀なの」

と振り向きざまに春名さんが言った直後、隣にいたショートヘアーで眼鏡

をかけた女性が

「コメットさん、初めまして。谷口優花です。春名から色々聞いています。

そちらがなつねさん、まきこさんですね?初めまして」

と振り向いて言った。

「初めまして」「初めまして」

「初めまして、優花さん。よろしくね」

 とわたしは2人のあ「さつの後に言った。それから5人で一緒に会場に

向かって歩き出した。何となくワクワクする。

「春名さん、あなたの最初の受験科目は?」

「音楽よ。次が言語なの」

「そっか〜わたしは最初が絵画製作で、次が音楽だから、会えないね〜優

花さんは?」

私は…同じだわ」

「ほんと?教室は?」

「1号館の512号室」

「わたしと同じだ!じゃあ音楽は?」

「2号館の313号室

 優花さんはさっきより小さな声で言った。

「え〜!わたしと同じだ!!一緒にがんばろ。!

 わたしは嬉しくて思わず少し大きな声で言った。

「エ、エエ〜」

 優花さんが自信がなさそうに言ったので、わたしが

「どうしたの?」

と聞こうとしたが、それより早く

「優花は実技試験があまり得意ではないの」

と春名さんが言った。

「そうなんだ。でもだいじょうぶだよ。わたしがいっしょにいるから」

「コメットには『ひとを助ける力』があるみたいだわ。私も筆記試験では

助けてもらったし…」

そう春名さんが言うと、優花さんの顔が少しだけ明るくなった。

「あ、そろそろ校門だ。なつねさんは最初の教室は?」

「1号館の515号室。次が2号館の311号室だから、両方とも違うの

よね〜残念」

「あ、私は最初が言語で次が絵画製作だからみんなと違うんだ。じゃ〜ね

〜みんな頑張って」

そう言ってまきこさんは一番奥にある3号館に向かっていった。

「あ、私も2号館だからみんなと違うんだった。じゃあ〜また後で、優花、ファイト!」

 続いて春名さんの元気な声が奥から2番目の建物に向かっていった。一

方、わたし達3人は一番手前の5階建ての建物に向かっていった。まん中

の入口から入り、エレベーターで5階に向かう。エレベーターを降りると

わたし達は入口から向って右に向うなつねさんと別れて左端から2番目の

教室に向った。廊の左側にある各教室内には既に数十名の受験カが集っ

ていた。

「優花さん、受験番号は何番?」

「51213だわ」

「わたしは51208よ」

 わたしはそう言って教室に入ると受験番号の書かれた机を探した。この

教室には30名が入っていて6列の机が並んでいた。わたしの机は入り口

から2番目の列のまん中で、優花さんの机の右隣だった。

「やっぱりお隣だわ。優花さん、よろしくね」

 わたしは優花さんの目をまっすぐ見ながら言った。すると突然優花さん

が笑いだした。不思議に思って聞いてみると

「ハハハ〜だってあなたのその顔を見ていたら、なんだかおかしくなっち

ゃったから〜あなたってふしぎな人ね。これって星力?それとも『ひとを

助ける力』?」

と答えてくれたので嬉しかった。

「わからないわ。でも良かった。あなたが元気になってくれて」

「こちらこそ。どうもありがとう。あ、先生が来たわ」

と優花さんが言ったので入口を見てみると、画用紙をかかえた小太りの女

性が入ってきて、

「みなさん、席について。初めまして。絵画担当試験官の橋本美樹です」

と言った。とたんに静かになり部屋の雰囲気が変わった。

「机の上には受験票、鉛筆、色鉛筆、消しゴム、時計以外のものは置かな

いで下さい。万一携帯を持って来たひとがいたら、ここのカゴに置いて下

さい」「これから写真の照合を行ないますので前を向いていて下さい」

 わたしが顔を前に向けると橋本先生は受験生の写真がはられたカードを

手慣れた様子でめくっていたので(前にも試験監督をやったことがあるん

だな)と思った。

「この試験は9時半から11時半までの2時間です。10時半から11時

15分までは退出を認めますが、11時半から11時35分までの間に必

ず戻ってきて下さい」

 橋本先生はちらっと時計を見ると言葉を続けた。

「次に今日の試験のテーマを発表します」

 ここで橋本先生は一瞬言葉を切った。わたし達は全神経を集中させ、か

たずを飲んで次の言葉を待った。

「今日の試験は4才児を対象に『園庭であそぶこどもたちと保育士』とい

うテーマで描いてもらいます。これから画用紙を配りますが、試験開始後

裏に受験番号と名前を書いて下さい」

 橋本先生はそう言って画用紙を配り始めた。わたしはB4の画用紙を前

から受け取って残りを後ろに回した。それから少しして、

「では、始めて下さい」

との橋本先生の言葉がチャイムと共にあった。わたしは画用紙を裏返すと、

受験番号と名前を書き、それから少し考えた。すると頭の中にイメージが

浮かんできた!もちろん雪ノ下保育園で遊んでいる星組のこども達と先生

である。早速そのイメージを絵にするべく、鉛筆で下書きを始めた。

 

11:00

 わたしは既に下書きを終え、色をつけていた。この時間までに退出した

人は3だけと、思ったより少なかった。頭の中に描いたイメージが除々

に形になっていく。それは有希先生と園庭に出したプールとその周辺で遊

ぶ子供達の絵だった。有希先生がースで子供達に水をかけている絵に色

をつけながら、思わずほほ笑んでしまった。

(ンー!?)
 
わたしは後ろに視線を感じ振り返ると、ほほえみを浮かべた橋本先生が

いたのでちょっとびっくりした。わたしが振り返ると先生はすぐに元の表

情に戻ったが、その顔は

(良く描けていますね。思わず笑ってしまいました)

と言っているかのように見えた。わたしは確かな手応えを感じた。それか

らしばらくしてわたしは絵を完成させ、終了15分前に退出した。優花さ

んは退出しなかったが、なんとか絵を完成させることが出来たようだった。

終了のチャイムが鳴るとすぐ、わたしは教室に戻った。画用紙の回収が終

わり、退出者が全員戻ってきたことが確認されると、橋本先生が言った。 

「これで午前中の試験は終了です。次の試験は午後1時から行なわれま

すので、10分前までに2号館に行って下さい。ただし、12時までは試

験が行なわれている可能性があるので、それまでは行かないように。で

は、お疲れ様でした」

 橋本先生が退出すると、教室内がにぎやかになった。 

「優花さん、どうだった?」

 わたしは早速優花さんに聞いてみた。

「ウ〜ン、ちょっと自信なくて…」

「だいじょうぶだよ。あんなに一生懸命に描いていたもの。次もがんばろ

う」

 そうわたしは言ったが、優花さんは更に顔を暗くして言った。

「次は一番苦手なの。とても受かる自信ないわ…」

「じゃ〜ちょっと外に出よ」

 わたしは優花さんを促して教室の外に出ると、ちょうど来たなつねさん

の心に呼びかけて事情を話し、3号館裏手の人気のない階段に優花さんと

2人だけで座った。目の前には森が広がっていた。

「ここなら誰もいないわ。ねえ、どうして自信がないの?」

「私は勉強は得意だし、子供達も好きだわ。でも絵を描くことや音楽、体育は苦

手で、人前では緊張してあがってしまって…上手く出来ないの。だから次の試験

は自信が持てなくて〜」

 優花さんは今にも泣きそうな顔をして答えた。

「ありがとう。話してくれて。でもだいじょうぶだよ。今からやる『スペ

シャル練習』をすれば」
「エ?」

「こっちへ来て」

 わたしは優花さんの手を引いて裏門から森の中に入ると、すぐに愛力ス

ーパーバージョンに変身し、森の少し開けた所まで来ると、ラバボーを呼

び出して優花さんと一緒に乗った。

「ラバボー、あの雲の上にジャンブして」

「了解だボー」

 ラバボーがそう答えた直後、わたし達は大空に一直線に舞い上がった。

わたしは優花さんの手をしっかり握った。優花さんはあっけにとられた様

子でぼうぜんと立ちつくしていた。

 小さい雲の上に出ると、わたしはバトンを振ってピアを出し、優花さ

んに言った。

「優花さん、ここなら誰もいないか大丈夫だよ。弾いてみて」

「エ?わ、ワタシ、ど、どうしてこんなところにいるんだろう」

 優花さんは我にかえった様子で言ったが、まだ驚きのあまり、状況が良

くわからないようだった。

「優花さん、わたしがハモニカ星国の王女だってことは聞いているよね?

これがわたしの本当の姿。いきなりこんな所に連れてきちゃってごめん

ね。でもここなら今までと違った感じで練習出来ると思って。どう、やっ

てみる?」

 わたしは優花さんの目をまっすぐ見ながらゆっくり話しかけた。すると

優花さんは次第に落ち着きを取り戻して言った。

「やるわ。でも楽譜は私は今持ってないし…」

「だいじょうぶ。もう出してあるから。見てみて」

「エ?まさか、だって私まだあなたに自分の課題曲名、話してないもの」

「いいから、見てみて」

 とわたしが言うと優花さんはピアノのそばまで行き、楽譜をのぞきこん

だ。とたんに彼女の表情が変わった。

「こ、これは…コメット、私、やるわ。何だか自信が出てきたの」

「良かった。すぐに始めて」

ええ

 と言った優花さんの顔はこれまでにない輝きに満ちていた。これを見た

瞬間、(きっと合格するにちがいない)

と思った。優花さんはイスに座ると、「7つの子」の楽譜を見ながら弾き、

歌い始めた。(ウ、上手い)わたしは驚いた。そのキレイな音色や透き通る

ような歌声は輝きに満ちていて、この世のものではないような気がした。

しかし優花さんはもっと驚いたようだった。そして弾き終わるとわたしの

所に来て言った。

「わ、ワタシ、どうしちゃったんだろう?今まであんなに上手く弾けたの

は初めて。まるで夢を見ているみたい。あのピアノのせいかな?」

「いいえ、あのピアノは愛力で出したものだけど、地球のピアノと同じよ。

特別なものではないわ。でもとっても上手だったわ。もう少し練習する?」

「そうね。でももうあまり時間がないから、もう一回だけ練習するわ」

と言って優花さんはピアノの方に向っていった。

 

12:20

 わたし達はその後地上に戻り、カフェテリヤでなつねさん達と5人でお

昼を食べていた。優花さんはすっかり自信を取り戻し、顔もこれまでにな

く輝いていた。

「フ〜ン、そうなんだ。優花、良かったね」

 わたし達の話しを聴いていた春名さんが言った。

「エエ。あなたの言った通り、いやそれ以上だったわ。コメット、あなた

ってホントに不思議なひとね」

 そう優花さんが言うと、みんな笑い始めた。わたしも思わず笑った。

それからしばらくして、まきこさんが言った。

「あら、もうこんな時間。そろそろ行かなくっちゃ。みんな、頑張ってね」

「ええ。私も行かなきゃ。優花、緊張しないでね。私も頑張るから」

「ええ。コメット、私達も行きましょ」

「ええ」

 と言ってわたしが席を立つと、なつねさんが慌てて立ち上がりながら言

った。

「あ、みんな待って〜」

 わたしは思わずほほ笑みながら、ゆっくりと2号館に向って歩き出した

 

12:50

 わたし達は313号室に入り、席に着いた。わたしの受験番号は8番、

優花さんは13番で、受験番号順に試験をすることになっていた。開始10

分前になり、まだ30代と思われるスマートな女性が部屋に入ってきた。

わたし達はすぐに席についた。部屋の空気が少し変わった。

「みなさん、こんにちは。初めまして、音楽の試験官の田村郁子です。こ

れから写真との照合を行ないますのでみなさん前を向いていて下さい」

と郁子先生は言って手早く写真をめくっていた。

「この試験は13時から15時位までを予定しています。受験番号順に『さ

っちゃん』、『七つの子』のどちらかをピアノで弾き、歌ってもらいます。

最初にどちらを選択するかを私に言って下さい。楽譜は用意されています

のでそれを使って下さい。なお、この試験は単にピアノを弾いたり、歌っ

たりすることだけでなく、他の人の演奏を聴く態度も採点の対象となって

いるので、自分の番が終わったら、そのまま席につき、試験が終わるまで、

退出しないで下さい。トイレ等で教室を一旦出る必要がある場合は手を上

げて知らせて下さい。特に質問がなければ後5分後に試験を始めます」

と郁子先生は言ったが、誰も質問する人はいなかった。部屋の空気が次第

に張り詰めてくる…。試験開始までの5分間がとても長く感じられた。そ

してついに試験開始のチャイムが鳴り、

「これから音楽の試験を開始します。受験番号1番の山根飛鳥さん、演奏

曲名を知らせて下さい」

との郁子先生の声があった。すると一番右端で入口に近い席に座っていた

女性が立ち上がって郁子先生に

「演奏曲名は『さっちゃん』です」

と言ってからすぐ近くを通過して左手にあるピアノの所に行き、着席した。

「では始めて下さい」

との合図で演奏が始まった

13:19

 それから試験は進んでいき、わたしの一人前の受験生が呼ばれた。わた

しは「輝きの元である方」をこころの中で呼んだ。すると不思議とこころ

が落ち着き、あの優花さんの演奏を思い出していた。

「受験番号8番のコメットさん、演奏曲名を知らせて下さい」

との郁子先生の声があり、ハッと我にかえった。すぐに立ち上がり、

「『七つの子』です」

と言ってから優端さんをちらっと見てピアノの方に向った。優端さんは少

し不安そうな目をしていた。着席すると間もなく

「では始めて下さい」

との声があったので、輝きの元である方に祈りつつ、ひと呼吸おいてから

ピアノを弾き、歌い始めた。

「烏〜なぜ啼くの。からすは山に〜」

最初は少し緊張があったようだが、すぐに教室の雰囲気が変わるのをエじ

た。

「河愛(か〜わ)い七つの子があるからよ〜」

ここはつい「かわいい七つの子」と歌ってしまいがちで、そう歌ってしま

った受験生も既にいたが、これが正しいのである。この頃にはとても気持

ち良く歌うことが出来ていた。

「河愛(か〜わ)い河愛(か〜わ)いと烏は啼くの。河愛(か〜わ)い河

愛(か〜わ)いと啼くんだよ〜」

「山の古巣へ行って見て御覧〜。丸(まある)い目をしたいい子だよ〜」

この曲は正しく歌うのは意外と難しいのだが、最後まで歌いきることが出

来た。(これまでの受験生の演奏の後と「何か」が違う自分の席に戻る

途中優花さんの顔をチラリと見たが、とても「いい顔」をしていた。わた

しは確かな手ごたえを感じていた。わたしは席に戻るとすぐにカゲビト経

由で優花さんの「こころの声」をそっと聴いてみた。

(「コメット、ありがとう」私は思わずこころの中でそう言っていた。みん

なの上手な演奏を聴いているうちに、少し自信を失いかけていたが、コメ

ットのあの演奏が、私が雲の上でした演奏を思い起こさせてくれた。私は

再び自信を取り戻し、こころを落ち着けることが出来た…)

(そうなんだ…)わたしはこれを聴いて安心し、優花さんの「こころの声」

を聴くのをやめた。やがて優花さんの順番が回ってきたが、緊張した様子

もなく席を立ち、ピアノの方に向っていった。

「では始めて下さい」

との声で、前奏が始まった。この試験では前奏をつけても良いことになっ

ていたが、最初の練習ではつけていなかったので、意外に思った。しかし、

2回目の練習ではつけていたのをすぐに思い出した。その直後、歌い始め

たが、練習の時と同じ、いやそれ以上の声と演奏だった。優花さんが弾き

終わると、自然と拍手が沸き起こってきた。普通ならありえないことなの

で、思わず郁子先生の方を見たが、先生も止めようとするどころか、小さ

く手を合わせていたので驚いた。優花さんは再び立ち上がると、みんなの

方に向って一礼した。今度は拍手こそなかったが、何とも言えない暖かい

雰囲気が教室全体を包んでいた

14:55

 それから試験は順調に進んで行き、予定より若干早く、15時5分前に

終了した。

「これで試験を終了します。この試験の結果は約1ケ月後の11月末から

12月上旬までに本人に文書で通知します。もし12月8日までに結果が

届かなかった場合はこちらまで連絡して下さい。それから合格した人には

来年3月中に保育士の免許状が届きますので、合格通知が届いた時と住所

が変更になる人は合格通知に書いてある連絡先に免許状の届け先を連絡し

て下さい。後3分近くありますが、まだ試験の終わっていない教室もあ

るので、15時ちょうどのチャイムが鳴ってから退出して下さい。それま

では席を移動してもかまいませんが、あまり大きな声では話さない謔、に。

今日はみんな御苦労様でした」

 そう郁子先生が言うと、早速数名の受験生が優花さんの周りに集まって

きて言った。

「どうしてあんな歌や演奏が出来るの?教えて」

「実は私もここに来るまではこの試験が苦手だったの〜でも、コメット

のおかげで出来るようになったわ」

するとわたしに目が向けられたので、

「わたしはただほんの少しお手伝いしただけ

と答えた。

 

15:10

 それからわたし達はなつねさんやまきこさん、春名さんに会ってこれま

でのことを話し、それからラバボーとラバピョンに乗って雲の上に出て、

優花さんの演奏を聴いてもらった。みんな嬉しそうだった。わたしは

(自分も含め、みんなきっと合格するに違いない)

と思った。そして12月1日、みんなに待望の合格通知が来た!わたし達

はすぐに有希先生に連絡した。とても喜んでくれ、嬉しかった。それから

わたしはラブリン変身し、ケースケの元に向った。ラブリントンネルを出

て、ケースケの家の前に立ったわたしはチャイムを鳴らした。すぐにケー

スケが出てきた。

「ケースケ、わたし、合格したわ」

「やっぱりそうか。おめでとう、よく頑張ったな。これからどうする?」

「ケースケにいつも会えなくなるのは残念だけど、わたし、鎌倉に残る。

あそこの保育園の先生になるのがわたしの夢だもの」

「そうか。頑張れよ。オレも頑張るから」

「ええ。あ、これから景太郎パパ達の所に行くからまたね」

それから間もなく、わたしは鎌倉に戻り、お祝いを兼ねた夕食を共にした。

「カンパ〜イ!みんな合格おめでとう!」

「乾杯!」「乾杯」

3人はワイングラスを合わせた。

「コメット、どうだった?」

「ケースケもツヨシ君達もみんな元気よ」

「ケースケ君、寂しがってなかった?あなたがここに残ると聴いて」

となつねさんが聞いてきたが、

 「いえ、喜んでくれたわ。景太郎パパ達も」

とわたしは答えた。

「ねえ、まきこさんはこれからどうするの?。このままここに残る?」

「私は4月に私の教会でやっている保育園の先生になるの。私もそこの保

育園で育ったから、小さいころからの夢だったの」

まきこさんは嬉しそうに答えた。

「そう…なつねさんは?ここに残るんでしょ?」

「ええ」

「ちょっと寂しくなるね—あ、そうだ、なつねさんには妹さんがいるんだ

っけ?」

「ええ。大学1年よ。今は両親と一緒に住んでいるわ」

「じゃ~もし良かったら、妹さんにここに来てもらわない?」

「ホント?実は私がここに来る時、妹も一緒に行きたがってたの。だから

きっと喜んで来ると思うわ。後で改めて聞いてみるけど」

なつねさんが嬉しそうに話した。

「そう、良かった。じゃあ、妹さんからの返事が来たら、知らせてね」

「了解!」

なつねさんが元気よく答えた

 

2010年 3/31 19:00

 それから3月になり、待望の保育士の免許状が届いた!これで4月から

正式に保育士として働くことになる。まきこさんの引っ越し準備が終わり、

ちょっとしたお別れパーティが始まろうとしていた。

「みんなの前途を祝してかんぱ~い!」「乾杯!」「乾杯」

 わたし達は今夜はワイングラスではなく、ビールを入れたグラスを合わ

せた。ほろ苦い味が口の中に広がる。合格通知が来た時とは微妙に違って

少し寂しいような、でもドキドキするような複雑な感じがしていた。しば

らく3人で食べながら話したりしているうちに、あっという間に10時近く

になってしまった。

「あ、もうこんな時間だわ。そろそろ帰らなきゃ」

まきこさんが時計を見て言うと、

「え、もう帰るの~」

となつねさんが名残り惜しそうに言った。

「わたしも、もうちょっといて欲しいけれど、そうもいかないわね」

「でも遠くに引っ越すんじゃないんだし…隣の市なんだから、またすぐに

会えるよ。今度は是非私の家に2人で、いや、なつねさんの妹さんも一緒

に3人で遊びにきてね」

「ええ」

2人が同時に言ったので、わたし達は思わず笑ってしまった。

 

22:00

「2人とも今まで本当にどうもありがとう」

まきこさんが何とも言えない、やさしい声で言った。

「いえ、こちらこそどうもありがとう。特に専門学校では、ほんとうにお

世話になったわ」

そう言いながら思わず胸がいっぱいになる。

「私からもありがとう。元気でね」

なつねさんの目にはキラリと涙が光っていた。

「じゃあ、また。さようなら。妹さんによろしく」

「ええ」

「まきこさん、さようなら

「コメット…☆――

まきこさんがそう言った直後、わたしは「何かが来る」のを感じ、こころ

が震えた。それからすぐにまきこさんは愛力スーパーバージョンに変身し、

玄関を出てすぐの所に愛力によって創り出された「星のトンネル」を通っ

て家に帰っていった。わたしのこころに「何かあたたかいもの」が残った。

(まきこさん

わたしは切ないような、何とも言えない気持ちになった

 

22:30

 わたしは自分の部屋で星国に戻ってからこれまでのことを思い出してい

た。すると、突然、部屋の中が明るくなり、「輝きの元である方」が現れた。

「輝きの元である方、こんばんは」

「やあ、久しぶり。君はもうすぐ自分の夢をかなえるようじゃが、どうだ

ったかな?」

「あまたは『君は必ず自分の夢をかなえる、いやそれ以上の経験をするだ

ろう』と言ってたけど、その通りになったわ。これまでの経験を通してわ

たしは『外の人の夢をかなえるお手伝いをしている時が一番嬉しいし、そ

うしたい』っていうことに気づいたの。だからその夢をかなえるために、

これからは保育園の先生として、たくさんのこども達の夢をかなえるお手

伝いをしていきたい、と思っているわ」

「それは良かった」

と輝きの元である方は嬉しそうに言う。

「でも、それだけじゃないわ。自分の夢をかなえる以上に、『夢を叶えるの

は自分の力だけではなく、たくさんの人の助けによって出来る』のであり、

そういう人達との出会いの大切さをツヨシ君やネネちゃん達を通して教え

られたし、『今までよりもっと素晴らしい、新しい夢を見つけていく』こと

の素晴らしさにもミラさん達を通して気付いたの」

とわたしが言うと、

「そうか。どうやら君は『新しい夢』を見つけたようじゃな

と輝きの元である方はわたしを見ながらちょっと意味ありげに言葉を続け

た。

「自分にふさわしい結婚相手を見つけるという

「エ、どうしてそれを~」

わたしが驚いて言うと、

「それは私が『輝きの元である方』だからじゃよ。ハハハ~ではまた」

輝きの元である方はそう言って消えてしまった。

(輝きの元である方、ありがとう

わたしはこころの中でそうつぶやいた。

 

2010 4/1 8:00

 そして次の日、朝食の後、玄関のチャイムが鳴った。

「ハ~イ」

と言ってわたしが玄関の戸を開けると、

「コメットさん、初めまして。姉がお世話になっています

引っ越しの荷物を抱えたなつねさんの妹の明るい声が弾んだ…

エピローグに続く

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