「コメットさんの日記新たなる旅立ち—地球(テラ)へ—」

第１章「王女からのメール」その１「エリザベス王女救出作戦」

前半「南アフリカへ」

コメットさん：26才。ハモニカ星国の王女。雪ノ下保育園の先生。エリザ

ベス＝ムベキ王女を助けに南アフリカ・ダーバンに向かう。

輝きの求道者：48才。この日記の作者。コメットさんと一緒にダーバンに

向かう。

エリザベス＝ムベキ王女：25才。南アフリカ共和国内のカワズール・ナタ

ール王国第７王女。王宮からダーバンに向かう。

マリヤ＝ムベキ王女：21才。カワズール・ナタール王国第８王女。エリザ

ベス＝ムベキ王女の実の妹。明るくて活動的。エリザベス＝ムベキ王女と

一緒にダーバンに向かう。

レスナー＝ムベキ王女：19才。カワズール・ナタール王国第９王女。エリ

ザベス＝ムベキ王女の実の妹。無邪気。

モニカ＝ムベキ王妃：55才。カワズール・ナタール王国第８王妃。エリザ

ベス＝ムベキ王女の実の母。

リディヤ＝ムベキ王女：30才。カワズール・ナタール王国第１王女。

ナタール＝ムベキ王子：31才。カワズール・ナタール王国第１王子。

セイラ＝ムガルさん：72才。モニカ＝ムベキ王妃の叔母。

ビクトリア＝ローズさん：ムベキ・ナショナル・トラストの社長秘書。

 

2014 7/31

18:00 (日本時間：南アフリカ時間：11:00)

　ティンクル・ドレスに変身したわたしは白いワイシャツと青いズボンに着替え

ていた輝きの求道者さんと一緒に「ディナー」をとっていた。列車の後方は少し

暗くなりかけていたが、前方はまだ明るく、しかも明るさが除々に増してきてい

た。

「ムベキ王女と会う場所の正確な位置はわかった？」

　ステーキを切りながらわたしは言った。

「ああ。ムベキ・ナショナル・トラスト、って言うらしいけど。中央郵便局

の真向かいの20階建てのビルだ。詳しくは後で地図を見ながら話そうと思

う」

　そう言って輝きの求道者さんは星国のワインに口をつけた。

「今夜泊まるホテルは決まっているの？」

「いや。あらゆる事態を想定しているのでね。今の所大丈夫だが、ムベキ王

女達とダーバンで会えないことも想定している」

「どういうこと？」

「彼女を狙う者は多いから、途中で何らかのトラブルに巻き込まれて来れな

くなるとか…でもダーバンやその周辺の幾つかのホテルに当たりはつけてあ

る。逆に日本にすぐ直行、ということも想定しているがね」

　そう言うと輝きの求道者さんはステ-キを口に運んだ。

「そうなんだ…」

　窓の外を見やりながらわたしは言った。

 

南アフリカ時間：12:30（日本時間：19:30）

　列車は濃いブルーのインド洋を走りながら徐々に高度を下げ、南アフリカ沿岸に

近づいていた。遠くに灰色がかった緑の陸地が見え、次第に大きくなっていた。わ

たしは白いTシャツとベージュのズボン、ひざまでの茶色いブーツ姿に変身した。

「良く似合っているね」

「ありがとう」

　ちょっと恥ずかしいような、何ともいえない気持ちになりながらわたしは答えた。

「後５分位して、ダーバンに近づいたら、海上で雲に乗り換えよう」

「ええ。ネコ車掌さんに伝えるわ」

　わたしはネコ車掌さんを呼んで、輝きの求道者さんの言葉を伝えると、窓の外を

眺めた。列車の高度は更に下がり、海の色は少し緑がかった明るいブルーに変わっ

ていた。そして良く見ると、白くて細いすじか海岸付近にたくさん見えた。

「白波が立っているようだね」

「そうなんだ。あ、街が見えてきたわ」

　海岸近くに建つホテルや中心部の高層ビル群が見えてきた。

「そろそろ降りよう」

「ええ」

　するとその言葉が聞こえたかのように、列車は減速すると、間もなく停止した。

わたしはドアを開けると、雲を出し、輝きの求道者さんと一緒に飛び乗った。

フワッとした、何とも言えない心地よい感覚が両足を包む。車掌さんにしばらく上

空に待機するように言った後、星のトレインは空高く舞い上がっていった。

「それではナショナル・トラストに向けて出発！」

「了解！」

　輝きの求道者さんの言葉と同時にわたしは少し前傾姿勢になりながら雲を急降下

させた。最初にフワッっとした感覚の後、下からの強い向かい風が吹きつけてくる。

しかし輝きによって守られているため、息が出来ない程ではなかった。海岸の砂浜

に打ちつける白い波がはっきり見える。海岸付近の海の色は白みがかった青緑色で、

とてもキレイだった。わたし達は薄茶色の砂浜の奥にある緑地帯の後ろに建つ、10

階建て以上の二棟の白いホテルを飛び越え、市中心部に向かった。

「左側のがガーデンコート・サウス・ビーチホテルだね」

　より高いホテルを指差しながら輝きの求道者さんが言った。

「有名なんですか？」

「ああ。２１階建てで、ここサウス・ビーチの中で最も南に位置するホテル

なんだ」

「へ〜〜そう。あ、シティー・ホールが見えてきたわ。セント・ポール教会

もよ」

　白いドームが特徴的な、市中心部にそびえるモダン・ルネッサンス様式の建物と

その近くの高い塔を持つ教会を見てわたしは言った。

「じゃあ、セント・ポール教会の敷地に降りよう。目立たないし、昼間は解

放されていると思うから」

「わかったわ」

　わたし達はウエスト通りとパイン通りという、２つの大きな通りの間にある区画

を高度を徐々に下げながら緑に囲まれた赤茶色の屋根のセント・ポール教会に向か

った。そして運良く教会の塔の窓が開いていたので教会の近くで一気に高度を下げ、

開いている窓から中に入り、階段で下に降りると庭に出た。塔の中には誰もいなか

ったが、外に通じる庭の門は案の定開いていた。今は日本と季節が逆で冬だが、ダ

ーバンは気候が温暖なので冬でも暖かく、心地良かった。

「上手くやったね」

「エエ」

「ナショナル・トラストは門を出て左手にある２つ目の交差点のすぐ向こう

側だ。急ごう」

　わたしはうなずくと、輝きの求道者さんの後について交差点を急いで横断し、向

かい側にある20階建ての白いビルに向かった。この辺りはオフィス街となってい

て、この時間はそれ程たくさんの人が歩いているわけでもなく、幸いにもわたし達

はほとんど注目を集めることもなかった。ビルの前には警備員と見られる２人の屈

強な男性が立っていたが特に見とがめられることはなかった。

　自動ドアを入り、受付と思われる所に行くと、そこにいた女性に輝きの求道者さ

んが英語で話しかけた。受付の女性が社長室に電話をし、それから輝きの求道者さ

んに話しかけた。

「ムベキ王女はまだ来ていないらしい。社長秘書のビクトリア＝ローズという

人がこちらに来るそうだ」

そう輝きの求道者さんが言ってから間もなく、黒いスーツ姿の美しい女性がやって

きて、

「初めまして。ムベキ・ナショナル・トラストの社長秘書のビクトリア＝ロ

ーズです。社長の後任が決まるまでの間業務を代行しています」

と挨拶した。

「初めまして。エリザベス＝ムベキ王女から連絡を受けて日本から来ました

輝きの求道者です。こちらは私の友人のハモニカ星国王女、コメット姫です」

と輝きの求道者さんが言った後、わたしは

「初めまして。ハモニカ星国王女のコメットです」

と挨拶した。

「社長室は最上階にあります。どうぞこちらへ」

　わたし達はビクトリアさんの案内で社長室に向かった。社長室に着くと、輝

きの求道者さんが口を開く前にビクトリアさんが話し始めた。

「実は少し前にこちらに連絡があったのですが、途中でトラブルに巻き込まれ

たらしく、予定より１０分程遅れる、とのことでした。ですのでもう間もなく

到着されると思うのですが…」

ちょうどその時、インターホンが鳴った。ビクトリアさんは言葉を切ると、受話器

を取った。

「社長室ですが、わかりました。すぐお通して」

それからわたし達に話しかけた。

「今、ムベキ王女様達が到着されました。間もなくこちらに来られますが、一

つ気になることが…」

「どういうことです？」

「こちらにはエリザベス＝ムベキ王女様とそのお母様のモニカ＝ムベキ王妃様、

その２人の妹のマリヤ＝ムベキ王女様とレスナー＝ムベキ王女様の４人が来ら

れる予定だったのですが、エリザベス＝ムベキ王女様の姿が見えない、という

報告がありました」

「何！？」

　そう輝きの求道者さんが言った直後、ノックがあった。ビクトリアさんはす

ぐに戸口に向かった。室内の空気がピーンと張りつめ、一気に緊張が走る。

（何が起こったんだろう…）

　わたしはかたずを飲んでドアを見つめた。

「ムベキ王女様方をお連れしました」

「ありがとう」

そう言ってビクトリアさんは急いでドアを開け、３人の女性を招き入れた。

「輝きの求道者様。初めまして。エリザベス＝ムベキ王女の妹のマリヤ＝ムベ

キです。こちらが私の母、モニカ＝ムベキ、そしてこちらが妹のレスナームベ

キです」

と３人の中で最も肌の黒い、活発そうな女性が挨拶をした。

「初めまして。日本から来ました輝きの求道者です。こちらが私の友人のコメ

ット王女です」

「初めまして。ハモニカ星国王女のコメットです」

「あなたが５年前、この南アフリカをバッタの被害から救って下さったコメッ

ト様ですね。お会い出来て光栄です」

とモニカ＝ムベキ王妃がほほ笑みながら手を差し出した。

「覚えて下さっていて、ありがとうございます。こちらこそ、王妃様にお会い

出来て光栄です」

　わたしは王妃の手をとりながら話した。

「輝きの求道者様、コメット王女様。実は、姉はここに来る途中でさらわれて

しまったのです」

少し顔を雲らせながらマリヤ＝ムベキ王女が言った。

「どういうことか、詳しく説明して下さい」

と輝きの求道者さんが言うと、

周囲をうかがってからマリヤ＝ムベキ王女が話し始めた。

「今朝８時前に姉の運転で王宮を出たのですが、１０時頃、南アフリカとの国

境検問所まで来た時、後ろからナタール王子とリディヤ＝ムベキ王女が乗った

車が来るのがわかりました。姉は私に運転を変わるように言うと、車を降りて

王子達の車に近づいた後、向きを変えて走っていきました。私達を逃がすた

め…おかげで王子達の車は姉を追いかけて行ってしまい、私達は国境を超える

ことが出来ました。でも姉からは連絡がないので、恐らく私達を逃がす時間を

かせいだ後、わざとつかまったんだろうと思います」

「ナタール王子達はどうして追いかけてきたんですか？」

「良くわかりませんが、多分、姉が父から託された遺産の事が彼らに知られて

しまったのではないかと思っています。どの程度かはわかりませんが…。お願

いです。どうか姉を助けて下さい」

そうマリヤ＝ムベキ王女が言った直後、ムーブメントさんが現れたのでびっく

りした。

（「コメットさん、大変、ナタール王子とリディヤ＝ムベキ王女の車がここに向

かってきてるわ。後約10分後にはここに来ると思うから早く逃げて」）

ムーブメントさんはわたしの心に直接語りかけてきた。

「ムーブメントさん、待って。エリザベス＝ムベキ王女はどこにいるの？」

（「ウルンディにある王宮よ。じゃあ」）

そう言ってムーブメントさんはフッと消えてしまった。

「ナタール王子とリディヤ＝ムベキ王女がもうすぐここに来る。ひとまず逃げ

よう」

「輝きの求道者さんにもムーブメントさんの声が聞こえたんですか？」

「ああ」

「私にもありました。あんな姿を見たのは初めてですけど。あ、お二人はナタ

ール王子達に顔が知られていませんから、マリヤ＝ムベキ王女様方とは別に裏

口から逃げた方が良いと思います。ここは私が何とかしますので…」

とビクトリアさんが言ったので驚いた。でもムベキ王女達のうなずく様子を見

ると、どうやらここにいるみんなにムーブメントさんが語りかけたようだった。

「わかりました。マリヤ＝ムベキ王女、車はどこにありますか？」

「中央郵便局の駐車場に」

「ではそこで合流しましょう。ビクトリアさん、失礼ですが、ここの窓は開き

ますか？」

と言って輝きの求道者さんはわたしの方を見た。わたしは次にすべきことを理

解した。

「はい—」

「では窓を開けて頂けますか？」

「エ？」

とビクトリアさんが言った直後、わたしはアガペー変身（スーパーバージョン）

した。それを見たビクトリアさんはすぐに窓を開けてくれた。わたしは雲を出

すと、飛び乗った。輝きの求道者さんもすぐ後に続いた。そしてみんなの方を

チラっと見てから大空に飛び出した。中央郵便局上空で待機していると、郵便

局に向かって来るマリヤ＝ムベキ王女達の姿が見えたので、高度を下げ、駐車

場に着地した。ムベキ王女達が乗り込もうとした車に向かってわたしがバトン

を振り、アガペーカーに変身させた。運転席に乗り込みながら輝きの求道者さ

んが言った。

「すみません、時間がなかったもので、車を特別な仕様に改装させてもらいま

した。後で元に戻せますので。急いで乗って下さい」

わたしが助手席、他の３人が後部座席に乗り込むと

「ムベキ王妃。とりあえず安全な場所に避難したいと思いますが、あなたがた

をかくまってくれる所を知っていますか？」

と輝きの求道者さんが言った。

「ピーターマリッツバーグに私の叔母がいます。そこなら…」

「わかりました」

と輝きの求道者さんが言った直後、レスナー＝ムベキ王女が口を開いた。

「ねえ、輝きの求道者さん、この車って、もしかしたら空が飛べるの？」

「もちろんです。シートベルトをしっかり閉めて下さい。ではピーターマリッ

ツバーグへ出発！」

輝きの求道者さんがそう言った直後、アガペーカーは愛力を噴射しながら垂直

に大空高く舞い上がっていった。

「ワオー」

マリヤ＝ムベキ王女達はびっくりしたようだったが、嬉しそうに周囲を見回し

ていた。車の上昇が止まった時、

「ムベキ王妃、ピーターマリッツバーグのどの辺ですか？」

輝きの求道者さんがムベキ王妃に尋ねた。

「叔母はここから約９０ km北西のピーターマリッツバーグ郊外のホーウィッ

ク自然保護区でゲストハウスを経営しています」

「ピーターマリッツバーグ中心部から約25 km離れたホーウィック自然保護

区ですか。わかりました。自然保護区に近づいたら誘導をよろしくお願いし

ます」

ナビゲーションシステムを見ながら輝きの求道者さんが答えた。

「わかりました」

ムベキ王妃が答えるのと同時にアガペーカーのスピードが上がった。わたしは

社長室を出る直前に忍ばせておいたカゲビトさん経由でビクトリアさんの心の

声を聴くことにした。

 

（ムベキ王女様方が去った後、社長室のインターホンが鳴った。私達がホーリ

ースピリット、と呼んでいる「ムーブメントさん」の言ったことはやはり本当

だったか、と思いつつ受話器をとると、案の定、受付からだった）

「ナタール王子様とリディヤ＝ムベキ王女様方が到着されました」

「お通しして。全部で何人？」

「５人です」

「わかったわ」

（それから間もなく、リディヤ＝ムベキ王女とナタール王子が３人のお伴を従え

てやってきた）

「マリヤ＝ムベキ達がここに来なかった？」

（鋭い目つきで室内を見回しながら、リディヤ＝ムベキ王女がかん高い声で言っ

た）

「10分位前に来ました。エリザベス＝ムベキ王女様を探しておられたようです

けど…『ここにはいません』と言ったら、すぐに出ていかれました」

「どこへ行ったの？」

「警備の者達からの報告では、入口を出て、中央郵便局の方に走っていったそ

うですが、そこから先はわかりません」

「行き先について何か話していなかった？」

「いえ、あ、マリヤ＝ムベキ王女様が『中央郵便局の駐車場に』って言っていた

のを聞きました」

「そこに車を置いていたのね。ナタール王子、中央郵便局に行くわよ」

「わかった」

「あ、それから、もしマリヤ＝ムベキ達がここに来るようなことがあれば知らせ

て。本当に行き先に心当りはないのね」

「はい。でももしかしたら、空港に向かわれたのかもしれません。そんな感じが

しただけですが…」

「それは十分あり得るわね。では〜」

（そう言ってリディヤ＝ムベキ王女達は出て行った。私はほっとして肩の力を抜

いた…）

（カゲビトさん、今度はリディヤ＝ムベキ王女に入って）

わたしはビクトリアさんのこころの声を聴くのを止めてカゲビトさんに呼びかけ

た。

（ハイ。もうやっています）

カゲビトさんがそう言った時、

「コメットさん、ビクトリアさんのこころの声は聴けた？」

と輝きの求道者さんが尋ねてきた。

「ええ。あの後すぐにリディヤ＝ムベキ王女達が来たそうよ。ムーブメントさん

の言った通りだったわ。でもビクトリアさんのおかげで、その後は空港の方に向

かうみたいだわ。今度はリディヤ＝ムベキ王女のこころの声を聴くつもりよ」

「へ〜そんなことが出来るんだ、すご〜い」

「ええ。ひとの影に入れるカゲビトさん、というホシビトを通して聴くのよ」

わたしはそう言うとカゲビトさんの準備が出来たことを確認し、早速リディヤ

＝ムベキ王女のこころの声を聴いてみた。

 

（どこへ行ったのかしら…。中央郵便局に着いた私達は駐車場などを探したが、

エリザベス達の車は見当たらず、走り去る車を見かけたという人もいなかった）

「とにかく空港に向かうわよ」

（私はそう言うと車にナタール王子の車の後部座席に乗り込んだ。わきを２人

の屈強な護衛が固める）

「は！」

（運転手が車をスタートさせた…）

わたしがここまでリディヤ＝ムベキ王女のこころの声を聴いていた時、輝きの

求道者さんが口を開いたので、すぐにこころの声を聴くのを中止した。

「あと数分でピーターマリッツバーグ上空に到着します、ムベキ王妃、ゲスト

ハウスは自然保護区のどの辺りですか？」

「西側にある湖のほとりです。あ、もう町が見えてきましたね。シティー・ホ

ールの塔が見えます」

　そうムベキ王妃が答えたので前方を見てみると、緑の森と草原を貫く一本の

幹線道路があり、その先にピーターマリッツバーグの町並みが点のように見え

てきた。

「え、まだ塔の位置がよくわかりませんが〜高度を下げていきます。コメット

さん、リディヤ＝ムベキ王女達の動きは？」

「今、空港に向かっているわ。多分後２０分位で着くと思うけど…」

「あと１０数分でゲストハウスに着くと思うから、着いたらまたリディヤ＝ム

ベキ王女のこころの声を聴いてもらえるかな」

「わかったわ」

　わたしは再び窓の外を見やった。町の中心付近には町を貫いている幹線道路

のすぐわきにシティー・ホールの赤茶色の塔が小さく見えた。一方、町のはず

れには緑に包まれた小高い丘が広がり、その奥には森と湖が広がっていた。そ

して地平線付近には高い山並みが連なっていた。

「あの森と湖が自然保護区ね」

「はい。あの道路を境に西と東に分かれていて、東には落差１００メートル近

くの滝もあって、とても美しい所です。３年前にムベキ大統領の働きで自然保

護区に指定されました。輝きの求道者様。あの道路から左に少し入った所に自

然保護区の入り口がありますので、その手前に降りて頂けますか？」

「わかりました。では着地したら車を元に戻しますので、マリヤ＝ムベキ王女、

運転を代わって頂けますか？」

「わかりました。こちらこそ代わって運転して頂いて。ここには何度も来てい

るけれど、こんないい眺めは初めてです。楽しかったわ」

次第に大きくなってくる幹線道路とその周囲の景色を見ながらマリヤ＝ムベキ

王女が答えた。輝きの求道者さんは更に車の高度を下げ、それから間もなく車

を道路脇の草原に着地させた。わたしがバトンを振って車を元に戻し、自分も

ブーツ姿に変身すると、輝きの求道者さんと一緒に後部座席に乗り換えた。一

方、マリヤ＝ムベキ王女が運転席に、モニカ＝ムベキ王妃は助手席に乗り込ん

だ。

「ゲストハウスはここから５分位の所にあります」

マリヤ＝ムベキ王女は車をスタートさせると言った。間もなく自然保護区入口

のゲートが見えてきた。道路の両側には様々な木々が立ち並んでおり、時折遠

くから鳥や動物の鳴き声が聞こえる。

「ここはあまり広くないので、大型の動物はほとんどいませんが、ジャッカル

などの小型の肉食獣やインパラなどの草食動物、小型のサルなどがいます」

マリヤ＝ムベキ王女はそう言うとゲートの手前で車を一旦止め、係員にズール

ー語で話かけた。するとすぐにゲートが開けられ、中に入ることが出来た。

「なんて言ったんですか？」

「彼とはもう顔なじみだから、『私的な訪問だ』って言っただけよ。でもこれ

で私達が来た事は誰にも話さないと思うわ」

そうマリヤ＝ムベキ王女が答えた時、何かが変わるのを感じた。そしてわたし

は思わずこう言っていた。

「マリヤ王女、わたし達、まだ会ったばかりなのに、そんな気がしないわ。同

じ王女だからかしら」

「そうかもしれないわ。私も今同じように感じたもの。コメット王女、もっと

あなたのことを教えて。あなたの国は本当はどこなの？」

「ここから４千万光年離れたトライアングル星雲という３重銀河の一つ、ハモ

ニカ星国という銀河系よ。その中のハモニカ星という星にわたしの両親が住ん

でいる城があるわ」

「すご〜い、私も行ってみたいな〜」

わたしの答えを聞いてレスナー＝ムベキ王女がひとみを輝かせて言った。

「そうなんだ。ここからどれ位かかるの？」

「星のトレインって呼んでいる宇宙船、否、『宇宙列車』で行けば、２時間く

らいかな、って、マリヤ王女、わたしの話、信じてくれてるんだ」

「もちろん。だってここまで『あの車』に乗って飛んできてるし…あれってあ

なたの国の車のデザインなの？」

「エエ、まあ〜そんなものよ」

そう答えつつ、わたしは思わず笑ってしまった。それを聞いた２人も笑い始め

た。

「フフフ〜、コメット王女、あなたってホントに不思議なひとね。まあ、地球

人じゃないから当然と言えば当然だけど。あなたといると、自然とこころが落

ち着いて、何でも話したくなってしまうのよ。あ、ゲストハウスが見えてきた

わ」

マリヤ王女が指す方向を見ると、青い水をたたえた湖のほとりに周囲に柵を廻

らした木造平屋建ての建物が見えてきた。マリヤ王女はゲストハウス脇の駐車

スペースに車を停めると、みんなに降りるよう促し、それからムベキ王妃の後

についてゲストハウスの入り口に向かった。わたし達もその後をついて歩いた。

ムベキ王妃は戸口にいた、大柄の腰が少し曲がった女性にズールー語で話しか

けた。それから、わたし達を見て、

「輝きの求道者様、コメット王女様。こちらが、このゲストハウスのオーナー

で私の叔母のセイラ＝ムガルです」

と英語で言った。

「セイラさん、初めまして。エリザベス＝ムベキ王女からの連絡を受けて日本

から来ました輝きの求道者です」

「輝きの求道者さんと一緒に日本から来ましたハモニカ星国王女のコメットで

す」

とわたし達が英語であいさつすると、

「輝きの求道者様、コメット様、初めまして。ムベキ王妃の叔母のセイラで

す。よくいらっしゃいました。さあどうぞ中へ」

とセイラさんは英語で答え、わたし達を中に招き入れてくれた。

奥のVIPルームと思われる広い部屋に入ると、セイラさんはわたしの目を見

ながら

「コメット様。あなた様のことはムベキ王妃からも聞いていました。あなた様

のおかげでこの自然保護区もバッタの被害から守られたのです。お会い出来て

大変光栄です」

と話してくれた。

わたしは思わず、その深いシワのある手をとって

「わたしもお会い出来て嬉しく思います。でもバッタの被害を食い止めたのは

みんなの星力のおかげです。わたしはほんの少しお手伝いしただけです」

と言った。

「セイラさん、この後、私とコメットさん、マリヤ＝ムベキ王女の３人でエリ

ザベス＝ムベキ王女を助けに行くつもりです。私達が戻るまで、２人をよろし

くお願いします」

「わかりました。輝きの求道者様、この２人は私がしっかりお守りします」

「エ〜、私もエリザベス姉さんを助けに行きたい」

「レスナー。あまり大勢で行くと動きにくいし、見つかりやすくなるわ」

「レスナー＝ムベキ王女、気持ちはわかるけれど、お母さんの言う通り、ウル

ンディには出来るだけ少ない人数で行った方がいい。王宮への案内はお姉さん

に頼むから、あなたはお母さんを守って欲しい」

と輝きの求道者さんはレスナー＝ムベキ王女のひとみを優しく見つめながら話

した。それを聞いていたレスナー＝ムベキ王女の表情が少し変わるのを感じた。

「わかりました。きっと姉を助け出して下さいね」

「大丈夫。我々には『輝きの元である方』がついているから、きっとお姉さん

に会えるよ」

「輝きの元である方？」

「さっきの『ムーブメントさん』もその一人よ。わたし達がここに（来れて）

いるのも、あの方のおかげだわ」

「フ〜ン、何となくわかったわ」

「コメットさん、リディヤ＝ムベキ王女の動きを知らせて欲しい。それによっ

て対策を立てなければいけないからね」

「わかったわ」

そう言ってわたしはリディヤ＝ムベキ王女のこころの声を聴いた。それから

「リディヤ＝ムベキ王女達は２人の護衛と分かれてダーバン空港からウルン

ディに向かった所よ。向こうに着くのは早くても１７時すぎ、多分１７時半近

くになるんじゃないかしら」

と輝きの求道者さんに答えた。

「護衛達はどこに向かったかわかる？」

「エ〜っと一人はヨハネスブルク、もう一人はイーストロンドン空港に飛行機

で向かう見たいよ。その後、車で途中の主な町や村も探すみたいだけど」

「ちょっと待った。ピーターマリッツバーグにも空港はある。しかもダーバン

からピーターマリッツバーグを経由してヨハネスブルクに行く便もある…そう

すると、ここにもいずれ来る可能性は高いってわけか…」

「ハイ、ここに私の叔母がいることはリディヤ＝ムベキ王女も知っています」

「でも、もし来たとしても、外にあの車がないのを見れば、部屋の中までは入

って来ないと思うし、少なくとも後１時間は来ないはずだから、１時間以内に

出発しよう。皆さん、私はこれから『輝きの元である方』にエリザベス王女が

捕らえられている場所などを教えてもらいますから、その前にムベキ王妃とマ

リヤ＝ムベキ王女は王宮の簡単な見取り図を教えて下さい。それからコメット

さんはもう一度リディヤ＝ムベキ王女達の動きを見て下さい」

と輝きの求道者さんが言ったので、わたしはうなずいた。

「輝きの求道者さん、私はどうすればいいの？」

「セイラさんと一緒に、あやしい者達が来ないか見張っていて下さい」

「わかったわ。行きましょ。大叔母様」

２人がドアの外に姿を隠すと、輝きの求道者さんは愛力スーパーパージョンを使

って「コネクター」さんを呼び出し、「コネクター」さんに頼んで自分のこころ

から先入感や悪い思いを取り除き、次に「ムーブメント」さんを呼んで「センタ

ー」さんに会えるようにしてもらった。そしてムベキ王妃達が作った見取り図に

基づいて「センター」さんにエリザベス＝ムベキ王女の居場所や見張りの位置な

どを教えてもらった。

「なるほど、王宮の地下か…でも見張りの数は多くはないから、上手く作戦を立

てればきっと助け出せると思う。レスナー＝ムベキ王女達も呼んで来よう。あ、

コメットさん、そっちはどう？」

「リディヤ＝ムベキ王女達はウルンディに向かっている途中だわ。それからヨハ

ネスブルクに向かった護衛からは１４時１５分発のヨハネスブルク直行便に乗っ

てそれからレンタカーで途中の主な都市を走りながらピーターマリッツバーグ空

港に向かうらしいわ」

「するとここを透るのは早くても２１時以降になるね。ありがとう。じゃあ、こ

れから『エリザベス王女救出作戦』を立てよう」

「オー！」

調度やってきたレスナー＝ムベキ王女達も声の中に加わった。そして約１時間後、

準備が出来るとわたしと輝きの求道者さん、マリヤ＝ムベキ王女の３人はアガペー

カーに乗り込んだ。

「レスナー＝ムベキ王女、さっき、カゲビトさんにあなたの影に入ってもらったか

ら、何かあったらわたしを呼んでね」

「私まだ携帯を持ってないけど…そっか、あなたのこころに呼びかければいいのね」

（「ええ。こんな風にね」）

とわたしがレスナー＝ムベキ王女のこころに呼びかけると、

（「わかったわ。スゴイ！私、コメットさんとお話し出来てる！」）

とすぐさま返事が返ってきたので驚いた。

（「スゴイ！飲み込みが早いのね」）

「ムベキ王妃、では、行ってきます。娘さんは必ず取り戻しますから、ご安心を」

「待っています。神のご加護を」

ムベキ王妃はそう言って、手を振り始めた。

「では出発！」

その直後、アガペーカーは愛力を噴射し、垂直に上昇していった。

—後半（「ウルンディへ」）に続く—