「コメットさんの日記新たなる旅立ち—地球(テラ)へ—」

第１章「王女からのメール」その１「エリザベス王女救出作戦」

後半「ウルンディへ」

コメットさん：26才。ハモニカ星国の王女。雪ノ下保育園の先生。エリザ

ベス＝ムベキ王女を助けにカワズール・ナタール王国の宮殿がある王都ウル

ンディに向かう。

輝きの求道者：48才。この日記の作者。コメットさんと一緒にウルンディに

向かう。

エリザベス＝ムベキ王女：25才。南アフリカ共和国内のカワズール・ナタ

ール王国第７王女。ダーバンに向かう途中で捕らえられ、ウルンディの王宮

の地下牢に閉じ込められる。

マリヤ＝ムベキ王女：21才。カワズール・ナタール王国第８王女。エリザ

ベス＝ムベキ王女の実の妹。コメットさんと一緒にウルンディに向かう。

レスナー＝ムベキ王女：19才。カワズール・ナタール王国第９王女。エリ

ザベス＝ムベキ王女の実の妹。ピーターマリッツバーグ郊外の動物保護区の

ゲストハウスにとどまる。

モニカ＝ムベキ王妃：55才。カワズール・ナタール王国第８王妃。エリザ

ベス＝ムベキ王女の実の母。レスナー＝ムベキ王女と一緒にゲストハウスに

とどまる。

リディヤ＝ムベキ王女：30才。カワズール・ナタール王国第１王女。ダー

バンからウルンディに向かう。

ナタール＝ムベキ王子：31才。カワズール・ナタール王国第１王子。リデ

ィヤ＝ムベキ王女の実の兄。

セイラ＝ムガルさん：72才。モニカ＝ムベキ王妃の叔母。

ビクトリア＝ローズさん：ムベキ・ナショナル・トラストの社長秘書。

 

2014 ７/31 15:15 (南アフリカ時間：日本時間 22:15)

 

　わたし達を乗せた車は丘陵地帯を流れる、カワズール・ナタール王国との国境

をなすトゥゲラ川を超えようとしていた。眼下には緑色の森が広がり、所々に黄

緑色の草原と茶色い大地とが見え、その間を縫うように流れる川が見えた。

「そろそろカワズール・ナタール王国に入ります。しばらく北東方向に進む

と思いますが、マリヤ王女、ウルンディが近づいたら誘導をよろしくお願い

します」

「ええ。後どれ位で着きますか？」

「後約45分位だと思います」

輝きの求道者さんがそう言った後、わたしは窓の外を眺めた。青い空の所々

に雲が浮かんでいる。この辺りはちょうど川が北西から南東方向に大きく蛇

行しており、上流の北西側は蛇のしっぽのように細く、下流側は蛇の腹のよ

うに太くなった後、再び細くなっており、しっぽを上げた蛇のように見えた。

それから間もなく、わたしはマリヤ王女に話しかけた。

「ウルンディにはあなたの兄弟が何人いるの？」

「まず、ナタール家では第一王子のナタール王子と第一王女のリディヤ王女、

第二王女のソフィヤ王女の３人、フィリペ家では第二王子のフィリペ王子と

第三王女のクリス王女の２人、エドワード家では第三王子のエドワード王子

と第四王女のミシェル王女、第五王女のビアンカ王女の３人、合計８人よ。

第六王女のヘレナ王女は第七王妃が亡くなってからはイーストロンドンに住

んでいるわ」

「そうなんだ。たくさんいるのね。わたしには兄弟がいないから、ちょっと

うらやましいわ」

とわたしが言うと、

「でも、うちは兄弟が多いから、父が亡くなった後、３つの家を中心に王位

を巡る争いが起きているのよ。あなたの所みたいに、他に王位継承者がいな

ければ争いが起きようがないと思うわ」

マリヤ王女がすかさず答えた。

「でも、うちだって…」

わたしは初めて地球に行った当時の話しをした。

「そう〜あなたの所も大変だったのね。でもあなたはいずれハモニカ星国に

帰って、王位を継ぐんでしょう？」

「そ、それは、まだ〜」

　わたしはハッとして考え込んでしまった…。

 

15:55

　車は王宮から10 km近くの地点に達していた。ウルンディとの境をなす曲

がりくねった川が見えてきた。

「あの川の手前の森に降りよう」

　車の高度を下げながら輝きの求道者さんが言った。

「あそこに小さな空き地が見えるから、そこに降りたらどうかしら」

「わかりました」

マリヤ王女の指差す方を見て、輝きの求道者さんが答えた。

車は更に高度を下げ、やがて森の中の広場のようになっている一角に着陸し

た。地形の影響からか、ちょうど森が切れかかっている部分で、直径１００

m位の、ほぼ円形の黄緑色の草地となっていて、1 m以上の背の高い草が生

い茂っていた。

「コメットさん、ここでもう一度リディヤ＝ムベキ王女達の動きを見てもら

えないかな」

「はい」

そう言ってわたしはリディヤ＝ムベキ王女のこころの声を聴いた。

「この国内には入ったみたいだけど、ここに来るには２時間位はかかりそうだ

わ」

「わかった。じゃあ、これからエリザベス王女の居場所などをもう一度確認す

るから、その後で作戦手順を最終確認しよう」

「ええ」

　わたしがそう言うと、輝きの求道者さんは早速アガペー変身してセンターさ

んを呼び出し、中の状況を聴いていた。そして

「中の状況は変わってないそうだ。ではこれから作戦の第一段を開始しよう

と思う。さっき言ったように、風になったら、まず通気口の前と城壁と城の

間に最低４ケ所はチェックして欲しい。出来れば牢屋の入り口の前か牢屋の

中にもチェックしてもらえれば作戦が楽になると思うけれど、無理はしない

ように」

と言った。「エリザベス王女救出作戦」はまず、わたしが風になってナター

ル城（王宮）まで行き、星のトンネルの出口をチェックして作り、一旦みん

なの所に戻るまでの第一段階、次に星のトンネルを使って３人で王宮まで行

き、輝きの求道者さんがおとりとなって見張りを引きつける第二段階、そし

てそ

の間にわたし達がエリザベス王女を救出する第三段階の３つに分かれていた。

「じゃあ、もし牢屋の中に星のトンネルの入り口を作ることが出来たら、エ

リザベス王女を連れてきていいですか？」

と聞いたら、

「ああ。見張りが油断していてスキがあればそうして欲しい。でも王女を連

れ出すには君が完全に実体化しなければならないから、今の状況だと難しい

と思う」

と返事があった。

「わかったわ。それでは行ってきます」

「気をつけて」

とマリヤ王女が言ったので、わたしはうなずくと、車の外に出てティンクル

変身し、バトンを振って風になった。からだが文字通り軽くなる。次の瞬間、

わたしの体は一気に上昇していった。車とそのまわりの草原がみるみる小さ

くなっていく。川を通過し、ある程度上昇すると、

次第に高度を下げながらナタール城を目指した。ナタール城は城本体を囲む

城壁と、本体との間の水をたたえた堀に分かれており、城壁の四隅には円柱

状の塔が配置されていて、城門のある側の塔には６人の見張りがおり、反対

側の塔には５人の見張りがいた。城門と本体は橋で結ばれ、城門のある正面

から見て城の右斜め後方には小さな広場があってその左隅にエリザベス王女

の捕らえられている地下牢に通じる通気孔があった。わたしは城のすぐ近く

に来ると、急降下し、堀を一周してチェックをした。それから通気孔のすぐ

近くにもチェックすると、数十cm四方の穴から中に入った。中は薄暗く、

ひんやりしていた。そしてついに牢屋の中に出た。中はたいまつがともされ、

薄明るくなっていたが、部屋の隅に誰かがうずくまっているのが見えた。

「誰？」

　そう言ってエリザベス王女が立ち上がったので、わたしは一瞬ドキリとし

て立ち止まってしまった。

「どうした？」

すぐに看守が様子を見に来たので、わたしはゆっくりとその場を飛び去るし

かなかった。

「風が吹いたみたいだけど…」

「気のせいだろう。通気口はあるが、ここまで風が吹き込むことはまずない

はずだからな」

通気口に入るわたしの後ろで看守の声がした。わたしは外に出ると、みんな

の待っている所に帰っていった。

「どうだった？」

「上手くいったわ。でも警戒が厳しくて、牢屋の中はチェック出来なかった

わ」

とわたしが答えると、

「ありがとう。じゃあ、これから作戦の第二段を始めよう。コメットさん、

星のトンネルの入り口を開いて」

と輝きの求道者さんは言った。わたしはうなずくと、アガペー変身（スーパ

ーバージョン）した後、バトンを振って星のトンネルを出した。

「では、これから通気口のすぐ近くの出口まで行きます。私が先に出ますか

ら、見張りがいなくなったら、マリヤ王女と一緒に出て下さい」

「了解！」

そう言うとわたしは輝きの求道者さんの後に続いて星のトンネルの中に飛び

込んだ。すぐ後にマリヤ王女も続いた。

「ウワ〜！スゴ〜イ！私、こんなの初めて。気持ちイイ〜！！」

マリヤ王女の興奮した声が聞こえた。ウルンディ城が次第にはっきり見えて

くる。

「外の様子が見えるのがいいよね。でも外からこっちは見えないから、安心

して」

「そうなんだ」

「あ、もうそろそろ出口だわ」

　わたし達はウルンディ城のすぐ近くに来ていた。城壁と青い水をたたえた

堀を飛び越え、通気口のある庭に降りて行く。やがて出口にたどりついた。

胸がちょっとドキドキするのを感じる。

「ムーブメントさん、来て」

わたしがムーブメントさんを呼ぶとバトンに愛力が集まってきて、こころが

落ち着くのを感じた。一方、輝きの求道者さんもムーブメントさんを呼んで

力をもらうと

「では、行きますよ」

と言って外に出た。

「くせ者だ！」

「あっちへ行ったぞ！」

作戦通り、近くの塔にいた見張りはおびきだされ、一瞬、がらあきになった。

わたしはマリヤ王女に目で合図すると、外に飛び出した。一気に緊張が高まる。

すぐにバトンを振って入口を出し、中に飛び込んだ。一方、輝きの求道者さんは

これを確認すると、すぐ近くの入口に飛び込み、姿を消した。後を追っていた見

張り達はこれを見て、混乱に陥った。わたし達はこのスキに牢屋にたどり着き、

マリヤ王女がエリザベス王女に呼びかけた。

「助けに来たわ、早くこっちへ！」

「マリヤ！」

エリザベス王女は一瞬ためらった後、雲に乗ってきた。わたしはすぐにバトンを

振って広げた通気口の中を雲を上昇させた。気配を感じた見張り達が駆けつけよ

うとした時、上から駆け込んで来た別の見張りに呼び止められた。

「侵入者が再び現れた。こっちだ」

（輝きの求道者さん、ありがとう）

そう思いつつわたしは出口の直前で雲を止め，周囲に人の気配がないのを確認し

てから外に出て、すぐに出て来た星のトンネルに飛び込んだ。

（フ〜〜）

全身の緊張が解け、思わずため息がもれる。間もなく輝きの求道者さんが合流し

てきた。それから間もなくわたし達は無事車の所に到着した。

—その２（「父の想い」）に続く—