「コメットさんの日記新たなる旅立ち—地球(テラ)へ—」

第１章「王女からのメール」その２「父の想い」

 

コメットさん：26才。ハモニカ星国の王女。雪ノ下保育園の先生。カワズ

ール・ナタール王国の王都ウルンディの宮殿に捕われていたエリザベス＝

ムベキ王女を助ける。

輝きの求道者：48才。この日記の作者。コメットさんと一緒にエリザベス

王女を助ける。

エリザベス＝ムベキ王女：25才。南アフリカ共和国内のカワズール・ナタ

ール王国第７王女。ウルンディのナタール城地下牢から助け出される。

マリヤ＝ムベキ王女：21才。カワズール・ナタール王国第８王女。エリザ

ベス＝ムベキ王女の実の妹。ウルンディでエリザベス＝ムベキ王女と再会

する。

レスナー＝ムベキ王女：19才。カワズール・ナタール王国第９王女。エリ

ザベス＝ムベキ王女の実の妹。ピーターマリッツバーグ郊外の動物保護区の

ゲストハウスにとどまる。

モニカ＝ムベキ王妃：55才。カワズール・ナタール王国第８王妃。エリザ

ベス＝ムベキ王女の実の母。レスナー＝ムベキ王女と一緒にゲストハウスに

とどまる。

リディヤ＝ムベキ王女：30才。カワズール・ナタール王国第１王女。ダー

バンからウルンディに向かう。

ナタール＝ムベキ王子：31才。カワズール・ナタール王国第１王子。リデ

ィヤ＝ムベキ王女の実の兄。

セイラ＝ムガルさん：72才。モニカ＝ムベキ王妃の叔母。

ビクトリア＝ローズさん：ムベキ・ナショナル・トラストの社長秘書。

 

2014 ７/31 16:20 (南アフリカ時間：日本時間 23:20)

 

　わたし達はアガペーカーでゲストハウスに向かっていた。エリザベス王女は

ここに来るまでに起こったことをわたし達に話していた。

「向こうに着くのは後１時間近く後になると思うけど、この間に…」

との輝きの求道者さんの言葉が終わらないうちにわたしは答えた。

「あ、もうやっているわ。どうやらリディヤ王女達も混乱しているみたいだ

わ。ウルンディに着くのは１７時すぎになると思うから、それまで大きな動

きはないと思うけど」

「ありがとう。では、１７時位にまたお願いするよ。その結果を見てこれか

らどうするかを決めよう」

「わかったわ。ねえ、エリザベス王女はどうしたい？」

「もちろん、まずダーバンに行って父からもらった遺産を見つけ出したいと

思いますが、ちょっとお腹がすいてきたみたいで…実はまだお昼を食べてい

ないんです」

とエリザベス王女が言ったので、わたしはバトンを振ってサンドイッチを出

すと、

「はい、どうぞ。遠慮しなくていいのよ」

と言ってエリザベス王女に渡した。

「ありがとうございます」

　エリザベス王女が受け取った直後、

「いま、お腹が鳴ったみたい」

と言ったので、みんな思わず笑ってしまった。でもこれをきっかけに姉妹と

急速に親しくなり、エリUベス王女も普通の言葉で話しかけてくるようにな

り、嬉しかった。それから１７時位までわたし達はお互いの家のことなどを

話したが、あっと言う間だった。１７時になり、太陽は地平線近くになり、

辺りは少し暗くなり始めていた。わたしは早速リディヤ王女の「こころの声」

を聴いてみた。

 

（「…ようやく車はウルンディ市内に入り、間もなく城が見えてきた。それ

から５分程で城に着くと、私は車を飛び降り、見張り達の長を集めた。

『何ですって！見知らぬ外国人の男女とマリヤにエリザベスが連れ去られ

たですって！しかも空を飛んで消えてしまった？どういうこと？もっと詳

しく説明して！』

（部下からの報告と同じじゃないの…）私は訳が分からず思わず見張り達

を一喝した」

『ですから、まず最初に外国人の男性が突然空中から雲に乗って現れ、こ

ちらに向かってきたので、あわててその後を追いかけた所、突然消えてし

まったのですっかり混乱してしまい、そのスキに後から現れたマリヤ王女

様と外国人の女性に地下牢に通気口から侵入され…』

『ちょっと待って、通気口の幅は何センチだと思っているの？子供じゃあ

るまいし、とても人が出入り出来るような幅じゃないわよ』

と私は思わず見張りの言葉を遮って言った。

『あの女性が魔法で通気口の幅を広げたとしか思えません。その女性はオ

レンジ色に輝く、見た事もない衣装に身を包んでいました。バトンのよう

なものも持っていましたから、きっと魔法使いに違いありません。男性も

同じようなバトンを持っていました』

『そ、そんな、信じられない…』と私は言いつつ、他の見張りの顔をうか

がったが、先の見張りの言葉にうなずいている様子を見ると、信じないわ

けにはいかなくなった。私はため息をついてから、

（とにかく、エリザベス達を追わなきゃ…）と思い直した。でもどうやっ

て…私は少し考えてから、他の兄弟や部下達を広間に集めた。そして、キ

レウ侍従長を呼んで言った。

『侍従長、ヨハネスブルクとイーストロンドン空港に行った部下からの返

事は？』

『それが今の所、エリザベス王女様らしき方々は見つかっていないそうで、

そろそろこちらに戻ろうかと思っているそうですが…』

『わかったわ。戻るように伝えて。あ、イーストロンドンにいる者には、

〔これからエドワード王子達をヘリで送るから、それまで待機していて〕

と伝えといて』

『承知しました』

『エドワード、ミシェルとビアンカと一緒にヘリでイーストロンドンに行

って。そこで私の部下と合流してヘレナの家に行くのよ』

「エ〜、何で俺達が行かなきゃならないんだよ〜」

『ヘレナがエリザベス達をかくまっているかも知れないじゃないの。それ

にあなた達が一番年齢も近いし、あの辺は一番詳しいんだもの』）

そう私が言うと、渋々ではあったが納得したように

「わかったよ。ヘリの準備が出来たら教えてくれ」

と言った。

『わかったわ。ではフィリペ達は車でリチャーズベイ周辺を探して。ナタ

ール王子はソフィヤと一緒にヘリでホーウィック自然保護区に向かって。

侍従長はヘリでピーターマリッツバーグ周辺を探すのよ。私はヘリでダーバ

ンに向かうわ』

そう私が言うと、フィリペ達やナタール王子達はうなずいた…」）

　わたしはすぐに「こころの声」を聴くのを中止して言った。

「大変。ナタール王子達がヘリでここに向かおうとしているわ。それから

リディヤ王女はヘリでダーバンに向かうって」

「何！本当か、」

　わたしがうなずくのを見た輝きの求道者さんは

「ではゲストハウスに着いたらすぐにここを出よう」

と言った。アガペーカーは既に自然保護区に到着し、間もなくゲストハウ

スが見えてきた。それから駐車スペースに車を停め、ゲストハウスの玄関

に向かったが、ムベキ王妃とレスナー王女が迎えに出てきていた。エリザ

ベス王女は真っ先に走り出て、２人と抱き合った。

「エリザベス！」「お姉様！」

「２人とも心配かけてごめんなさい」

「輝きの求道者様。コメット様。娘を助けて下さって、どうもありがとう

ございます」

「こちらこそ。マリヤ王女に助けて頂きました。彼女の助けがなかったら、

エリザベス王女を助け出すのは難しかったと思います。それはとにかく、

残念ながら今はゆっくりお話ししている時間がありません。ナタール王子

達がここに向かおうとしています。後１時間から１時間半でここに到着す

るでしょう」

「そうなんですか…」

「ですから、すぐにここを出発してダーバンに向かいたいと思いますが、

ダーバンにもリディヤ王女が向かうそうですから急がなくてはなりませ

ん。コメットさん、ダーバンには星のトンネルはつながっている？」

「ええ。でも車はここに置いていくんですか？」

「いや。車ごと星のトンネルで行こうと思う。みんなの力を集中させれ

ば、出来るハズだ。ムベキ王妃、愛力スーパーバージョンを使われます

か？」

「ハイ」

「では車に乗ったら、コメットさんに星のトンネルの入り口を出しても

らいますから、そこに愛力を注いで下さい」

「わかりました」

「ねえ、輝きの求道者様。あの車には５人しか乗れないハズだけど、ど

うするんですか？」

そうレスナー王女が尋ねると、

「もちろん車に乗る前に、６人が乗れるようにコメットさんにしてもら

いますから、安心して下さい」

と輝きの求道者さんは答えた。わたしもうなずいた。

「それでは、５分以内に準備して、出発しましょう」

「了解！」

　みんなの声が響いた。

 

１７：１５　セイラ＝ムガルさんに別れを告げるとわたし達は６人乗り

にした車に乗り込んだ。

　愛力スーパーバージョンに変身していたわたしが普段より４〜５倍大

きい星のトンネルの入り口を出すと、ムベキ王妃とエリザベス王女が言

った。

「輝きの求道者様。私達もスーパーバージョンに変身したいのですが」

「エリザベス王女もスーパーバージョンが使えるのですね」

　うなずきつつ輝きの求道者さんが答えた。

「はい」

　そう言うとエリザベス王女はバトンを出すのではなく、両手を広げて

「ムーブメントさん、来て」

と言った。すると王女の指輪が白く光輝き、両手が輝いてから体全体が

白く輝いたのでちょっと驚いたが、輝きが薄れると

水色を基調としたドレス姿に変身していた。一方、ムベキ王妃は同様に

オレンジ色のドレス姿になっていた。わたし達３人は互いに見合うと、

声をそろえて

「輝きの元である方。あなたからもらった愛力を、どうかわたし達の祈

りに変えて。アガパオー」

と言ってバトンや手から愛力を星のトンネルの入口に注いだら入口が

開いたので輝きの求道者さんはすぐにアガペーカーをスタートさせ、

中に飛び込んだ。数分後、車はダーバン中央郵便局の駐車場の一角に

出た。日は既に沈み、辺りは暗くなりかけていた。車を現地の大型車

にし、自分達も目立たぬよう身なりを整えた後、ムベキ＝ナショナル

＝トラストに向かった。建物内に入り、受付でビクトリア＝ローズさ

んに連絡をしてもらうと、すぐに社長室に案内された。案内の社員が

社長室のドアをノックすると、すぐにビクトリアさんが出て来て中に

招き入れてくれた。

「ビクトリアさん、すみません。心配をおかけして」

「いえ、ご無事で何よりです。早速ですが、お父様からお預かりした

ものをお渡ししたいと思うのですが…。金庫はこちらです」

ビクトリアさんはそう言って社長室の奥にあるドアをあけ、小部屋に

わたし達を案内し、パソコンを操作して壁に埋め込まれた隠し金庫を

出現させた。

「オオ〜」

　思わず歓声があがる。

「エリザベス様。指輪をお持ちですか？」

　ビクトリアさんが聞いてきたので

「エエ」

とエリザベス王女は言って指輪を見せた。

「それではその穴に指輪を入れて下さい」

とビクトリアさんの言葉の通りに金庫の右側にある小さな穴に指輪を

はめた。すると数字が並んだボタンが中央付近からスウっと出てきた

ので驚いた。

「これで暗証番号を入れるのね」

と小声で言うとエリザベス王女はボタンを押し始めた。

（いったい何が出てくるんだろう⋯）

　皆かたずを飲んでその様子を見守った。すると間もなく、金庫の扉が

ひとりでに開いた。思わずその奥に目が行く。あまり良く見えなかっ

たが、封筒のようなものがあるのが見えた。

「開いたわ」

とエリザベス王女は言って中にあるものに手を伸ばした。出て来たも

のはA4より少し小さめの封筒だった。端はしっかり封がしてあった。

「開けるわよ」

　エリザベス王女は慎重に端をナイフで切ると、封筒を開けて中身を取

り出した。緊張した空気が流れた。

「小切手だわ！１２００万ドルよ！！」

　B5位の大きさの小切手を見ながらエリザベス王女が興奮して言ったと

たん、皆の緊張がゆるみ、部屋の空気が一気に和んだ。エリザベス王

女は嬉しそうに小切手をわたし達に見せてくれた。ムベキ王妃やマリ

ヤ王女達も嬉しそうだった。

「他には何も入っていないの？」

「ン？あ、何か入っているわ。封筒よ。手紙かしら」

　そう言ってエリザベス王女は中から小さな封筒を取り出し、封を開け

た。みんなの目が再び手元に注がれる。

「やっぱり、手紙だわ。何て書いてあるのかしら」

　エリザベス王女は封筒から手紙を出すと、読み始めた。次第にその表

情が変わっていく。

「お父様⋯」

　そうつぶやいたエリザベス王女の目には涙が光っていた。

「何て書いてあったの？」

　そうわたしが聞くと、エリザベス王女は手紙を見せてくれた。そこに

はこう書いてあった。

　「親愛なる娘エリザベスよ。ここに私がお前のために残したものを

同封する。私は本当はお前に王位を継いで欲しかった。私はお前の母

を最も愛していたし、お前がこの王国の行く末を案じ、この国のため

に仕えようとしていたことも知っていたからだ。でも私はおまえの妹

達はもちろん、リディヤを始め、ナタールやフィリペ、エドワード家

の者達も皆愛しているし、その幸せを願っている。だからこの国のた

めにどうか皆で協力してこの国を治めて欲しい。この財産はそのため

にお前達を守るものとなろう。神の祝福があるように」

「私、何てバカなことを…お父様の本当の気持ちも知らないで、このお金

を持って逃げようとしてたなんて…」

　そう言って涙ぐむエリザベス王女の肩にそっと手を触れながらわた

しは語りかけた。

「だいじょうぶだよ。あなたはただ家族を守ろうとしただけだもの」

 

「コメット王女、私、自分がどうしたいかがわかったわ」

　突然エリザベス王女が顔を上げて言ったので、わたしは思わず

「え？」

とつぶやいてしまった。

「私、リディヤ王女に会うわ。この手紙を見せて、一緒にこの国のた

めに働けるよう、頼んでみるの。その前にあやまらなきゃ」

　そう話すエリザベス王女の顔はすっかり輝きを取り戻していた。

　エリザベス王女はそれから手紙を他の家族にも見せた。皆納得した

ようだった。一方、わたしは輝きの求道者さんに話したが、喜んでく

れた。と同時に

「ただ、リディヤ王女がエリザベス王女の話しをすぐに受け入れてく

れるかどうかわからないと思うから、対策を話し合った方がいいと思

う」

と言ったので、わたし達はそれからしばらく話し合った。１８時頃、

輝きの求道者さんが聞いて来た。

「コメットさん、リディヤ王女がここに来るまで後どの位かかりそう

かな？」

「え〜と、多分あと、４０〜４５分位だと思うけど」

　リディヤ王女のこころの声を聴くのを止めてわたしは言った。

「じゃあ、これから急いで食事をして、１８時半には準備しよう。コ

メットさんは悪いけど、２０分すぎにはリディヤ王女のこころの声を

聴くのを再開してくれるかな」

「わかったわ」

　そうわたしは言うと、バトンを出して振り、みんなの食事を出し

た…。

 

１８：３０

　わたし達は食事を終えると、リディヤ王女を迎える準備をした。

まずわたしと輝きの求道者さんは小部屋に移動し、わたしはリディヤ

王女の動きを探った。

（「もう少しだわ」私はヘリから次第に大きく、強くなっているダー

バンの町灯りを見ながら思った。町の周りは森や草原が広がり、後方

には海も広がっているハズだが、暗くてヘリの中からはほとんど見え

なかった。

「後どの位？」

私が前の席にいる操縦士に聞くと、

「後、５〜６分で中央郵便局の駐車場に着くと思います」

との返事が返ってきた）

「そう…」

　私が眺めていると、ヘリは次第に高度を下げ、黒い固まりのような

森の木々がぼんやりと見え始めた。それからすぐに町の上空に達し、

中央郵便局とその脇の駐車場が見えてきた。ヘリは更に高度を下げ、

駐車場に停まっている数台の車がはっきり見えてきた。数分後、私は

２人の部下と一緒に地上に降り立った。

「どちらへ？」

「決まってるじゃないのよ。エリザベス達がこの町にいるとしたら、

あそこしかないわ。って言うか、そこにいる可能性が一番高いと思う。

さあ、行くわよ！」

「ハ！」

部下達の威勢のいい返事が返ってきた…

 

　わたしは「こころの声」を聴くのを止めると言った。

「リディア王女達が駐車場に着いたわ。もうすぐここに来る」

「わかった。すぐにムベキ王女達に知らせて」

「ええ」

　わたしはすぐにムベキ王女達のこころに呼びかけた。

 

—その３（「和解への道」）に続く—