「コメットさんの日記新たなる旅立ち—地球(テラ)へ—」

第１章「王女からのメール」プロローグ

コメットさん：26才。ハモニカ星国の王女。雪ノ下保育園の月組の担任。

自分の将来について思いをめぐらすために一時星国に帰国していたが、か

つてお世話になった景太郎パパ達と再び一緒に暮らすようになる。「星

力」を使う事の出来る「星使い」でもある。

輝きの求道者：48才。この日記の作者。ムベキ王女からのメールを受け、

コメットさんに相談する。

エリザベス＝ムベキ王女：２５才。南アフリカ共和国内のカワズール・ナ

タール王国第７王女。　　　　　　　　　　　　　　　

あおいちゃん：11才。コメットさんのいとこ。スピカおばさまの娘。これ

までスピカおばさまと一緒に暮らしていたが、コメットさんと一緒に住む

ために鎌倉に「留学」する。

寧々（ネネ）ちゃん：17才。コメットさんがお世話になっている藤吉家の

主人、景太郎パパ達のふたごの妹。

剛（ツヨシ）くん：17才。同じくふたごの兄。

沙也加ママ：ツヨシ君、ネネちゃんの母親。

ケースケ：28才。コメットさんの「星の恋人」。世界一のライフセーバー

を目指し、ニースで行われる世界大会に備えて練習中。

有希先生：37才。鎌倉市在住。雪ノ下保育園の宇宙組の担任で４月から副

園長に抜てきされる。８才の娘がいる。

センターさん：「輝きの元である方」の人格の一人。男性のような姿をし、

主に教え導く役割をするが、詳細は不明。

ムーブメントさん：「輝きの元である方」の人格の一人。愛力の源であり、

一定の姿や形を持たず、その正体は謎に包まれている。

ラバボー：コメットさんのつき人

 

2014 7/29

22:00

「はい、コメットです」

わたしは（こんな時間に誰だろう？）と思いつつティンクルホンに出ると言った。

「もしもし、輝きの求道者です。こんな時間にご免。実は—」

と言って話し始めた輝きの求道者さんの言葉にわたしは衝撃を受け、

「それってほんとうなんですか？」

と思わず言ってしまった。

「僕もそう思って色々調べたけど、確かにそうらしい。で、返事を送った

ら、さっき返事が来たんだ—」

　と声のトーンを微妙に落として語る輝きの求道者さんの話の内容をまとめると

こうだった。

「実はお昼頃、僕の職場に英語で書かれたメールが届いたんだ。そのメー

ルアドレスは確かに僕のものだったんだが、差出人の名前に心当たりがな

かった。と言うか、びっくりした。何せ『プリンセス・エリザベス＝ムベ

キ』って書いてあったんだからね。でもその内容を良く読んでみたら、も

っとびっくりした。ムベキ王女は南アフリカ共和国内のカワズール・ナタ

ール王国の第７王女で、お母さんは第８王妃で国王の８人の奥さんの中で

一番若く、国王にも一番気にいられていたんだ。でも5日前に国王に呼び

出されて、『愛する娘よ。私はおまえに王位を継いでもらいたいと思ってい

る。でもおまえの母親には男の子（王子）がいないから、自分に万一の事

があったら、何も残してやることが出来ない。だから今のうちにこれを渡

しておこう』と言って１２００万ドルの小切手を預けた金庫のカギを開け

るための指輪と、暗証番号を教えてもらったそうだ。でもそれからすぐに

国王は何者かに殺されてしまい、３日後までに王宮を母親と２人の妹と一

緒に出なければならなくなったが、王宮を出た後は日本に行こうと思って

いるので、助けに来て欲しい。また小切手の安全な投資先も教えて欲し

い、と書いてあったんだからね。カワズール・ナタール王国なんて聞いた

こともなかったから、『どうせまた迷惑メールだろう』と思ったが、念のた

め調べてみたら、１度滅んだが、４年前に再興された国であることがわか

って驚いた。しかも、その国を再興したのがルイス＝ムベキといってムベ

キ王女のお父さんで、タルボ＝ムベキ南アフリカ大統領のお兄さんである

こともわかったんだ。『これはもう間違いない』と思って、すぐに返事を送

ったら、さっき『では３１日の午後１時（現地時間）に王国の隣の都市ダ

ーバンにある父が経営していた会社で会いましょう。そこに例の金庫があ

るので』という返事が自宅のメールに来たんだ。南アフリカは治安もあま

り良くないし、今回の件はちょっと僕だけの手に負えないと思うから、出

来れば一緒に来てくれないかな？」
　わたしはちょっと考えてから、

「今日はもう遅いし、すぐに返事は出来ないけど、明日の朝でいいです

か？」

と答えた。

「ああ。でも飛行機の手配の関係もあるから、出来るだけ早く、遅くとも

９時までには頼むよ」

「ええ。ではまた」

「ああ。さようなら」

　そう言って電話はきれた。わたしは早速「輝きの元である方」に会うべく、愛

力スーパーバージョンに変身した。「輝きの元である方」は最初は一人の方と思っ

ていたが、最初に会ってから５年位してから３つの「人格」というか、「働きの一

部分」、というか、主に教え導く役割の「センター」さん、「センター」さんや他

の人との間を取り持ってくれる「コネクター」さん、一定の姿や形を持たず、愛

力の源である「ムーブメント」さんの「３人」がいて、その時に応じて一体とな

ったり、別々になって話し合ったり、「一人」で行動したりしていることが分かっ

てきた。わたしはまずこころを静めると、「コネクター」さんに頼んで自分のここ

ろから先入感や悪い思いを取り除き、「ムーブメント」さんに会えるようにしても

らった。それから、目を閉じ、耳を澄ましてバトンに意識を集中した。感覚が鋭

くなり、自分の周りの空気のわずかな動きも感じられるようになった。それから

「ムーブメントさん、来て」

と言った。すぐに目を開けると、７色に光る「かがやき」がアガペーバトンの金

色の星の部分に集まって来るのが見えた。

「ムーブメントさん、もっと来て」

とわたしが言うと、「かがやき」が更に集まってきて、直径数十センチのボール状

になり、金色に光り輝いた。

「ムーブメントさん、わたしがどうすればいいか教えてくれるように、セ

ンターさんに会わせて、アガパオー」

と言ってわたしがバトンを振ると、

（「ええ」）

という声がこころに響き、あたりが白く輝いた。それから光輝く男の人のよう

な姿をした「センターさん」が現れた。

「コメットさん、久しぶり」

「センターさん、こんばんは。あの…」

　わたしはこれまでのことをセンターさんに話した。そして、

「センターさん、輝きの求道者さんと一緒に南アフリカに行くべきか、教

えて欲しいんですけど…」

と聞いてみた。

「君にはもうわかっているハズだけど…どうしたい？」

「そ、それは、もちろん一緒に行きたいと思うけれど…」

「向こうで何が待っているかわからないし、すぐに行けるかわからない、

って言いたいんだろう？」

センターさんはわたしが言い終わらないうちに言葉を続けた。

「ええ〜って、よくわかりますね」

「それは、まあ〜って、とにかく、一緒に行く事を恐れる必要はないよ。

君達はきっとムベキ王女に会えるハズだ」

「ほんとうですか？」

「ああ。これ以上は今は話せないが…。ああ、そうそう、君のいとこも行

きたがるかもしれんが、今回は連れていかない方がいい」

「わかりました」

「では、また」

「センターさん、さようなら」

わたしがそう言った直後、センターさんはフッと姿を消した。

「ムベキ王女の居場所は私が知ってるわ。じゃ〜ね」

そう言ってムーブメントさんもわたしが話しかける間もなく、フッと姿を消した。

それから間もなくわたしも眠りについた。

 

7/30　7:45

　次の日、目覚めて身支度を整えると、すぐに台所に行った。この時はまだ沙也

加ママしかいなかったが、やがてみんなが出て来て朝食となった。早速昨日の話

をしてみると、みんなびっくりしていた。

「それで、お姫様を助けに行くの？」

パンを食べながら沙也加ママが聞いてきた。

「ええ。星のトレインで行けば２時間位で行けると思うので、明日の夕方

前くらいに出発しようと思います」

「コメットさん、私も一緒に行きたい〜」

とセンターさんが言った通りあおいちゃんが言ってきた。

「残念だけど、今回はそれは出来ないわ」

「どうして？」

「だって、センターさんが『今回は連れていかない方がいい』って言うん

だもの。それに、向こうは治安も良くないし、あなたに何かあったら、お

ばさまに申し訳ないわ」

　 わたしが「おばさま」と言ったとたん、あおいちゃんの表情が変わったのをわ

たしは見逃さなかった。

「おばさまに聞いてみる？」

　すかさずわたしが言うと、あおいちゃんはかぶりをふって言った。
「イイ。ダメって言うに決まってるから」

「そっか〜。でもムベキ王女を助け出すことが出来たら、きっと会えるよ」

「ホント？」

　あおいちゃんは目を輝かせて言った。

「ええ。そのまま日本に来るかもしれないし、もしかしたら、向こうで女

王様になるかもしれないけれど、その時は呼んでくれると思うよ」

「そっか〜。じゃ〜それまで待ってる」

「わかったわ」

　わたしは少しほっとして言うと、言葉を続けた。

「ごちそうさまでした。これから輝きの求道者さんに連絡してきます」

　わたしは席を立つとすぐに自分の部屋に戻ってティンクルホンで輝きの求道者

さんに電話をし、一緒に行くことを伝えた。輝きの求道者さんはとても喜んでく

れた。そして明日の１７時３０分に家の前で待ち合わせることになった。保育園

に行く用意を整えてから再び台所に戻ってみんなに報告すると、玄関に向かった。

「それじゃ〜行ってきます」

「行ってらっしゃい」

　あおいちゃんやツヨシくん、ネネちゃんの声に後押しされるように家を出た。

それから星のトンネルを使って８時３０すぎに雪ノ下保育園に着き、早速この春

から副園長になった有希先生に事情を話し、明日から１週間、休みをとることに

した。

「気をつけてね。こっちのことは心配しなくていいから」

　職員室の中で有希先生は優しく語りかけてくれた。

「すみません、突然無理を言ってしまって…」

「いいのよ。今は子供の人数も少ないし—。でも今日はしっかり働いてもらう

わよ」

　ちょっとイタズラっぽく笑いなから有希先生が言う。

「ハイ！」

　その言葉に思わず反応して答えていることに気づいた。いつの間にか不安な気

持ちや重たい感じが吹き飛んで、笑顔が戻ってきた。有希先生といっしょにいる

と、なぜかそうなってしまう。スゴイな〜と思う。それからわたしは子供達の待

つ、月組に向かった。

 

18:30 　

「それではお先に失礼します」「失礼します」

「さようなら」

　有希先生と別れて星組の担任のなつねさんと一緒に保育園を出たわたしは、し

ばらく歩いてからなつねさんと別れて星のトンネルで家に戻り、あおいちゃん達

と夕食を食べた。それから星力を集めに出かけ、戻ってから輝きの求道者さんと

連絡をとった。彼の話ではムベキ王女からはまだ連絡がきていないとのことだっ

た。それからしばらくしてベットにもぐりこんだが、明日からのことが気になっ

て、なかなか寝つけかなった。何かがやってくる気配を感じてふと横を見ると、

「どう？興奮してる？」

との声がし、同時に小さな丸い「かがやき」が現れたので思わず、

「ムーブメントさん！」

と言ってしまった。

「シ〜。声が大きいわよ。せっかく安心して寝てもらおうと様子を見にきたのに

〜」

「ごめんなさい」

　わたしが小さな声で言うと、

「いいのよ。今からあなたの回りをまわるから、これで良く眠れると思うわ」

そうムーブメントさんは言って、小さな輝きをまきちらしながらわたしの回りを

２〜３度まわった。するといつの間にか安心して眠ってしまった。

 

７／３１　９：００

　次の日、起きて朝食をとると、あおいちゃん、ツヨシ君、ネネちゃんと一緒に

海に向かった。海岸に出る前に「HONNOKIMOTIYA」に行き、２階で水着に着替

えた。わたしはうすい｢ピンクの一体型のものを、あおいちゃんは学校で着るよう

な、紺色の水着を着た。一方、ネネちゃんは黄色に水玉模様が入ったセパレート

タイプのものを着ていて、（急に女性らしくなったな）と成長を感じた。ツヨシ君

は青い海水パンツをはいていて、カッコ良かった。

「ツヨシ君、ネネちゃんと一緒にいるとカップルみたいに見えるよ」

とわたしが言うと、ツヨシ君はネネちゃんからちょっと離れながら、

「え〜、そんな〜」

と恥ずかしそうに言ったので、思わず笑ってしまった。

 

１２：００

　４人で海水浴を楽しんだ後、「HONNOKIMOTIYA」でお昼を食べた。あおいち

ゃんとツヨシ君、ネネちゃん達に店番を頼み、沙也加ママと一緒に車で買い物に

出た。買ってきた材料で夕食の下ごしらえをした後、沙也加ママが言った。

「それじゃ〜私は『HONNOKIMOTIYA』に戻るわ。あ、もしかしたら、５時半ま

でに戻れないかもしれないわ」

「すみません、沙也加ママ。しばらく会えないかもしれないけど、あおい

ちゃんをよろしくお願いします」

「だ〜いじょうぶよ。こっちのことはまかせて。そっちも、輝きの求道者

さんが一緒なんでしょ？あ、ケースケ君には連絡した？」

「あ、まだです—。向こうも色々忙しいみたいなんで…」

　わたしがちょっとためらいがちに言うと、

「あ、そう言えば、明日からニースで大会なんだっけ…でも〜行く前に連

絡しといた方がいいわ。向こうに行ってからでは連絡しにくくなるかもし

れないし」

　わたしの気持ちを察するかのように沙也加ママが言った。

「ありがとう、沙也加ママ。後で連絡します」

「じゃ〜気をつけてね」

「さようなら」

　沙也加ママが「HONNOKIMOTIYA」に向かった後、１５時すぎに輝きの求道者

さんから連絡があり、ムベキ王女が王宮を出てダーバンに向かったこと、自分も

こちらに向けて出発したことを知らせてくれた。その後、ケースケに連絡をして

これまでの事を話した。

「そうか。まだ会ったこともない王女様を助けに行くなんて、お前らしい

な。でも無理はするなよ。おれだって色々考えてんだから—」

「え？何を？」

とわたしが聞くと、ケースケは急に歯切れが悪くなって、

「そ、それは〜お前とのこれからのこととか—」

とためらいがちに言ったので、思わず

「わたしと一緒に暮らしてくれるとか？」

と聞いてしまった。

「お、お前な〜」

　ケースケは呆れたように言ったが、敢えて否定はしなかった。

「ごめん、ごめん、冗談だよ。明日から大会だって言うのに、変なこと聞

いちゃって」

　ちょっと顔が赤くなるのを感じながら話した。いつの間にかすっかり元気にな

っていた。ケースケもそれを感じたようだった。

「気にしなくていい。とにかく気をつけて」

「ケースケも頑張って」

「ああ。じゃあな」

　わたしはティンクルホンを切ると、現地のことを調べたりして出発に備えた。１７時頃、

ツヨシ君達が海から戻ってきた。

「ただいま〜あ〜楽しかった」

玄関から中に入りながらあおいちゃんが言った。

「おかえり〜」

とわたしが言うと、

「ただいま〜。あおいちゃん、随分泳ぎが上手くなったわ」

とネネちゃんが嬉しそうに話した—

　しばらく話していると、玄関のチャイムが鳴った。

「輝きの求道者さんだわ。じゃ〜みんな、行ってきます」

　わたしは立ち上がると玄関へ向かった。戸を開けると、そこには青い長袖の

シャツとカジュアルなズボン姿で、アガペーバトンを持った男性が立っていた。

「こんばんは、コメットさん」

「こんばんは、輝きの求道者さん。あ、そろそろ来たみたいだわ」

　わたしはそう言うと、バトンを出してアガペードレス（スーパーバージョン）

に変身し、ラバボーを呼び出した。

「コメットさん、行ってらっしゃい」

あおいちゃんがちょっと寂しそうな声で言った。

「出来るだけ早く戻ってくるから、心配しないで」

「ウン、あおいちゃんのことはぼく達がいるから、まかせて」

　そうツヨシ君が答えるのを聞いて、頼もしく思った。

「それじゃ〜輝きの求道者さん、ラバボーに乗って下さい。みんな、さよ

うなら」

「さようなら」

　わたしは輝きの求道者さんがラバボーに乗るのを確かめてから、ラバボーの上

に飛び乗った。そして

「ラバボー、星のトレインまでジャンプ！」

と言った。

「了解ダボー！」

との声の直後、わたし達は空高く舞い上がった。

その１へ続く—