「コメットさんの日記新たなる旅立ち―地球(テラ)へ―」

第３章「被災地に花開く友情」その2「ほんとうの友」

 

コメットさん：26才。ハモニカ星国の王女。雪の下保育園の先生。石巻マン

ガ館で行われる予定の復興イベント前日、マンガ館近くで凪さんと出会う。

あおいちゃん：11才。コメットさんのいとこ。スピカおばさまの娘。鎌倉

に「留学」中。コメットさんと一緒に石巻マンガ館に向かい、凪さんと

「ともだち」になる。

石森凪さん：12才。石巻マンガ館の近くに住んでいた少女。両親を津波で

失い、高台に移り住んだことで友達を失うが、コメットさん達と出会うこと

により、輝きを取り戻す。

石森渚さん：48才。凪さんの伯母さん。

石森淳さん：52才。凪さんの伯父さん。海岸近くの水産加工工場で働く

石の森久美子さん：31才。コメットさんが震災時にお世話になったNGO

「石巻フィレオの会」代表。震災の時に助けられたことをきっかけに

石の森カイトさんと結婚。

石の森カイトさん：46才。石巻マンガ館館長。ご当地ヒーロー「石巻カイト」

でもある。

ムーブメントさん：「輝きの元である方」の人格の一つ。愛力の元であり、

姿形は不定形でその正体は謎に包まれている。

ラバボー：コメットさんのお供＆ペット。

 

2014 11/1　10:30

　わたしは2人が飛び上がるとすぐにカゲビトさんを通してあおいちゃんの

「こころの声」を聴いた。

(…「気持ちいい…」私は凪さんの手をしっかり握りながら大空を飛んでいた。

眼下には石巻の町が広がっていた。前方には石巻湾とその先の青い海が続いて

いた。

「どう？」

「最高だわ。こんなに楽しい気持ち、初めてだと思う」

「良かった。行きましょう」

私は凪さんの手をとって石巻湾の外を目指した。湾の外には白波が立つ青い海

と右側を中心に緑に覆われたリアス式の海岸が広がっていた。私達は少し高度

を落として湾の周囲を時計回りに一周した。それから向きを変えて湾の奥に

向かった。すぐに河口付近にある大きな長い橋が見えてきた。

「あなたの家はどこ？」

橋を越え、石巻市とその周りを囲む山々が大きく見えてきた時、私は凪さんに

聞いてみた

「あの高台の上よ」

「後で行っていい？」

「ええ。もちろん!歓迎するわ」

「良かった。そろそろ降りましょう」

私達は次第に高度を下げ、マンガ館の駐車場に降り立った。)

…

　ここでわたしは「こころの声」を聴くのを一旦止め、２人に話しかけた。

「どうだった？」

「楽しかった〜〜。私、こんなに楽しい気持ち、初めてかも」

そう凪さんはこれまでになく嬉しそうな顔で答えた。

「私も楽しかった〜〜」

「そう、良かった。これからどうしたい？お昼くらいから明日の復興イベント

について石の森カイトさん達と話し合うことになっているけど、まだ時間があ

るから…」

あおいちゃんにわたしが聞くと、

「凪さんの家に行きたい！」

と、元気良く答えがあった。

「ええ、いいわよ、って凪さん、大丈夫？」

「ええ。もちろん!歓迎するわ。みんなで飛んでいけばすぐ着くわ」

「じゃあ、決まりね。ラバボー、お願い」

「了解ダボー！みんな、早く乗るボー」

わたし達はあっという間に広がったラバボーの上に飛び乗り、最後にあおい

ちゃんが凪さんの手をとって引き上げた。

みんなが乗るとすぐ、

「それではいくボー、ジャンプ〜」

とのラバボーのｺと共に、わたし達は大ｭ曹｢上がった…。

 

11:00

　わたし達は凪さんの家の近くの日和山付近を飛行していた。この辺りは海に

近いが、小高い丘になっていて、海岸付近を一望することが出来た。わたし逹

は日和山公園でラバボーから降りると、凪さんの案内で家を目指した。

「ここが私の家よ」

　公園の近くの小さな２階建ての家の前で凪さんは言った。

「素敵なおうちね」

「ありがとう。さあ、入って」

凪さんに促されるままわたし達は門をくぐり、凪さんが開けてくれた玄関の

ドアから中に入った。

「おじゃまします」

「おじゃまします」

「いらっしゃい、あら、コメットさん、久しぶり。そちらのかわいらしい方

は？」

凪さんの伯母さんである渚さんが玄関に顔を出して言った。

「いとこのあおいちゃん。明日の復興イベントに行く予定なの」

「そう。似てると思ったわ」

「あおい、こちらが私のおばの渚さん。良くしてくれているわ」

「初めまして。柊あおいです。石巻には初めて来ました。よろしくお願いし

ます」

「石森渚です。よろしくね」

「あれ、おじさんは？」

「３０分くらい前に明日の復興イベントの打ち合わせのために出かけたわ」

「私たちのは石巻マンガ館でお昼を食べながら１２時半くらいからで、正式

には午後１時からだけど、違うのかしら」

「場所は同じだけど、11時位から、と言っていたから違うと思うわ。後から

一緒になるかも知れないけど」

そう渚さんは言って言葉を続けた。

「みんな、冷たいものがいい？温かいお茶 るけど？」

「私は冷たいものがいいわ。ひとっ飛びしてｫたし」

「私も」

「私は…温かいものがいいわ」

「わかったわ。すぐに用意するわね」

渚さんは台所に向かった。私たちは凪さんの案内でその隣のリビングに向かった。

リビングには茶色いテーブルといすがあった。

「ここに座って」

入口から手前の席を指差すと、凪さんは台所に向かい、飲み物を持ってきた。

「どうぞ」

「ありがとう」

「ありがとう」

「いただきます…おいしい」

「冷たくておいしい」

「良かった」

それから私たちは親しく語り合い、あっという間に１２時になった。

「あ、もうこんな時間。そろそろ行かなくちゃ。ねえ、凪さんも一緒に打ち合わせに

行かない？」

「行きたい。でもいいの？」

「念のため聞いてみるけど、大丈夫だと思うわ」

「嬉しい！」

と凪さんより早くあおいちゃんが答えるのを見て、思わず笑ってしまった。凪さんも

笑っている。それからマンガ館に連絡して了解をとると、凪さんに言った。

「大丈夫だって。お昼も用意してくれるみたいよ」

「良かった。ねえ、おばさん、行ってもいいでしょ？」

「ええ。もちろん。帰りは淳さんと一緒になるかもしれないわね。コメットさん、

よろしくお願いします」

そう渚さんは言ったが、輝き自然度チェックで気になるものを感じたので

「ええ」

と答えつつも、

（後でこころの声を聴いてみなきゃ…）

と思っていた。

「じゃあ、行こっか。渚さん、また明日」

「行ってきます」

「渚さん、ありがとう。楽しかったです。また来ていいですか？」

「ええ。みんな、行ってらっしゃい」

との渚さんの声に促されるように私たちは玄関を出て、日和山公園に向かった。

 

12:10

 日和山公園に着くと、わたしはラバボーを呼び出し、みんなで乗り込んだ。

「みんなしっかりつかまって、ジャンプ〜」

その直後、わたし達は急激に上昇し始め、あっという間に500 m程上空に達した。目の

前に石巻湾が広がり、眼下には石巻の街並みが広がっていた。わたし達は少しずつ高度

を下げながら、マンガ館を目指した。やがてマンガ館の銀色の屋根が次第に大きくなっ

てきて、わたし達は駐車場に再び降り立った。

　それからわたし達はマンガ館の正面玄関に向かった。玄関の周囲には地元にゆかりの

あるマンガのキャラクターの像が立ち並んでいた。

「私、マンガ館に来たのは初めてなの。だからとても楽しみ」

と目を輝かせて言ったあおいちゃんに、

「午後６時まで開いているから、後でゆっくり観れるよ」

とわたしは言った。

「嬉しい〜。早く中に入ろう」

とあおいちゃんは言って、先頭に立って玄関を通過した。すぐ後に続いて凪さんも入った。

わたしも続いて中に入る。１階は受付とグッズの販売コーナー、事務所などがあり、私たち

を見て受付付近にいた若い女性が声をかけてきた。

「コメットさん、久しぶり。凪さんもいらっしゃい。こちらがあおいさんね」

「久美子さん。お久しぶり。あおいちゃん。こちらが石の森久美子さん」

「初めまして。コメットさんのめいの柊あおいです。今日はよろしくお願いします」

「『石巻フィレオの会』代表の石の森久美子です。マンガ館へようこそ。今日の会議は

事務所の中で行うから、こっちに来て」

　久美子さんはそう言って、右手奥にある事務所の中に入れてくれた。私たちは事務所の

奥にある会議室に入った。長方形のテーブルには既に凪さんの伯父さんを含む１０数名が

座っていた。

「ここに座って。みんなに紹介するわ」

久美子さんは入り口に近い、空いた席を指して言った。そして私たちが席につくと、

「みなさん。コメットさん達が到着されました。今回はお二人の方が特別に参加される

ことになりました。こちらがコメットさんのいとこの柊あおいさん、それから石森淳さん

のめいの凪さん」

と言って紹介してくれた。

「初めまして。柊あおいです。石巻には今朝初めて来ました。よろしくお願いします」

「石森凪です。伯父がお世話になっています」

あおいちゃん達が立ち上がってあいさつをすると、一番奥にいた体格の良い男性が笑顔を

向けて言った。

「石巻マンガ館にようこそ。マンガ館の館長、石の森カイトです」

それから他の参加者の自己紹介があり、最後に

「凪の伯父の石森淳です。よろしく」

と凪さんの伯父の淳さんが挨拶をした。それからカイトさんが

「それでは、これで全員そろいましたので、予定より少し早いですが、会議を始めたい

思います。まず、明日の復興イベントの準備状況について久美子さんから報告お願いし

ます…」

と言って話し合いが始まった…。

 

  14:30　

　それから順調に話し合いは進み、メインのプログラムの一つ、ヒーローショーについての

報告が行われようとしていた。しかし、その直前、担当のカイトさんが電話に呼び出され

た。間もなく戻ってくると、少し暗い顔つきで

「実は今、明日のヒーローショーで怪人に襲われる役の女の子が急に体調が悪くなって、明日

のショーに出れなくなった、と子供の親から連絡がありました。急遽代役を探さないといけ

ないと思いますが…」

と、言った。わたしは、少し考えてから、

「ねえ、凪さん、代わりに出てみない？女の子はちょうどあなたと同じ位の年頃だし、そん

なにせりふが多いわけではないわ。ショーﾌ演出はわたしの力ﾅ蛯ﾉ竄驍ｱとになってい

るわ」

と、言った。凪さんは少し考えてから、

「私、あおいさんが出るなら一緒に出たいと思います。いいですか？」

と、あおいちゃんの方も見ながら言った。

「ええ。もちろん。あおいちゃんはどう？」

「凪さんが出るなら、私も出てみたいです」

あおいちゃんは目を輝かせながら即答した。

「カイトさん、台本を少し変更する必要があると思いますが、いいですか？」

と、わたしが尋ねると、

「ええ、台本の方はこの後すぐに担当の人に連絡して、夕方までに何とかしますから」

カイトさんがそう答えた。

「わかったわ。リハーサルは１８時からでいいですか？」

「はい。これから詳しく説明したいと思います…」

カイトさんは私達を見回してから話を続けた…。

 

16:40

　会議は16時20分位には終わり、私達は会議室を出て、マンガ館内を観て周っていた。

２階には地元にゆかりのある様々なマンガのキャラクターの原画やイラスト、ショート

ムービーなどのコーナーがあり、中でもカイトさん演じるご当地ヒーロー、「石巻カイト」

の活躍するシアターが人気だった。

「ねえ、コメットさん、映画があと１０分で始まるみたいだよ」

そうあおいちゃんが言ったので

「ええ、そろそろ行こう。凪さんは？」

と答えた。

「あ、はい」

と、一瞬間を置いて凪さんが答えたので、気になったわたしは

「凪さん、もしかして、緊張してる？」

と、聞いてみた。

「いえ、まだそうでもないですけど…」

と凪さんは答えたが、

「だいじょうぶだよ。私たちが一緒だから…」

と、声をかけた。すると

「ほら凪、行こう」

あおいちゃんが凪さんの手をとってシアターに向かっていった。

 

17:05

「ああ〜、面白かった。私たち、こういうのに出るの？」

ショートムービーが終わった直後、あおいちゃんが言った。

「そうね。全く同じではないけど、基本的には同じだね。詳しくは台本を見てもらえれば

わかるわ」

「楽しみ〜」

「次はどこに行きたい？」

と二人に聞くと、

「私は原画コーナーを見たいけど、凪は？」

「私は３階のカフェでパフェが食べたい。ラストオーダーは５時半のはずだから…」

と、それぞれ答えたが、凪さんの答えを聞いて

「私もカフェに行きたい」

と良い直した。

「それじゃあ決まりね。３階に行こう」

二人もうなずいて３階に行く階段に向かった。

 

17:55

 カフェ特製のパフェを食べてから、一旦２階に降りた後、再び３階に来ていた。今いる

３階の図書室は様々な種類の漫画や絵本が多数あり、中にはライトノベル等の漫画以外

の本もあった。

「あ、もうすぐ閉館ね。そろそろ下に降りなくっちゃ」

　閉館５分前のアナウンスを聴きながら、わたしが言うと、

「もうちょっといたい所だけど、リハーサルがもうすぐはじまるから、凪、行こう、」

「うん」

と、言って２人ともついてきた。私たちは１階まで降りると、裏手のショースペース

に向かった。

「ねえ、コメットさん、リハーサルって、照明とかつけるんでしょ？周りの人に気づ

かれない？」

凪さんが少し不安そうに聞いてきた。

「あれ、話さなかったっけ？ええと、これから見てもらえばわかるけど、リハーサルの

時は私が周りを暗闇で覆うから、周囲からは見えないし、音も聞こえないのよ」

そう私が言うと、凪さんは少し安心したように

「そうなんだ」

と、言った…。

　ショースペースに着くと、既に何人かのスタッフが来ていたが、主役のカイトさんの

姿はまだなかった。わたしは周囲を見回して、外部の人がいないのを確認してからバトン

を振ってマンガ館の周りを暗闇で覆った。すると間もなく、「石巻カイト」のスーツに身

を包んだ、カイトさんが現れて言った。

「みんな集まっているようだね。それではこれからリハーサルを始めたいと思う。コメッ

トさん、用意はいい？」

「はい」

　私がそう答えると、

「では、最初から始めよう。怪人ツナミ、所定の位置について。凪さん、あおいさんも

最初のセリフを言う位置について」

とカイトさんが言った。凪さん達は少し緊張した面持ちで指定の位置についた。それから

間もなく、

「シーン１、スタート！」

とのカイトさんの声が響き、リハーサルが始まった…。

                                          

21:30

　カイトさん達のリハーサルは続いていたが、凪さんとあおいちゃんは21時にリハーサルを

終え、淳さんの車で家に向かっていた。私も分身をショースペースに残して２人と一緒に車に

乗っていた。

「…あ〜楽しかった。最初はちょっと緊張したけど、カイトさん達のおかげで、リラックスして

出来るようになったわ」

あおいちゃんは目を輝かせながらそう言ったが、凪さんは

「私は思ったようには出来なかったわ…ああいうショーで演技するのは結構難しいのね…」

と少し疲れたように話した。

「二人とも初めてなのに、良く頑張ったわ。今夜はゆっくり寝て、明日に備えよう」

「了解！」

二人の声が上がったが、あおいちゃんの声の方が大きかった。

「私も二人とも良かったと思う。明日は私は８時半集合だから、８時には家を出るが、みんな

乗っていくかね？」

「私達は９時までに行けばいい、と言われているけど…どうする？」

そう２人に聞いた所、

「私は早く行きたいから、一緒がいいわ」

そうあおいちゃんが言った後、少し間を置いて

「私もみんなと一緒に行きたい」

と凪さんが答えた。

「じゃあ、決まりね。淳さん、今日は送って頂いてありがとうございました。明日もよろしく

お願いします」

「こちらこそよろしく。あ、家に着いたよ。みんな、ここで降りて。私は車を入れてから行くから」

私たちはうなずくと、車を降りて玄関に向かった…

その３「復興イベント」に続くー