「コメットさんの日記新たなる旅立ち―地球(テラ)へ―」

第３章「被災地に花開く友情」プロローグ「あの日へ…」

 

コメットさん：26才。ハモニカ星国の王女。雪ノ下保育園の先生。カリオ

ストロ公国の新女王、クラリス二世をルーク＝カリオストロ伯爵の手から

助け出し、その結婚式及び戴冠式に出席する。

あおいちゃん：11才。コメットさんのいとこ。スピカおばさまの娘。鎌倉

に「留学」中。コメットさんと一緒に結婚式及び戴冠式に出席。

石森凪さん：12才。石巻マンガ館の近くに住んでいた少女。両親を津波で

失い、コメットさん達に助けられる。

沙也加ママ：コメットさんがお世話になっている藤吉家の主人、景太郎パ

パの妻

ツヨシ君：17才。沙也加ママのふたごの兄。

ネネちゃん：１７才。同じくふたごの妹。

石の森久美子さん：31才。コメットさんが震災時にお世話になったNGO

「石巻フィレオの会」代表。震災をきっかけに石の森カイトさんと結婚。

石の森カイトさん：46才。石巻マンガ館館長。ご当地ヒーローでもある。

ムーブメントさん：「輝きの元である方」の人格の一つ。愛力の源であり、

姿形は不定形でその正体は謎に包まれている。

ラバボー：コメットさんのお供＆ペット。

 

2014 10/27　18:30

　わたしはティンクルスマホで東日本大震災時に訪れた石巻市に住む

石の森久美子さんから届いたメールを見ていた。彼女は震災直後に結成さ

れた「石巻フィレオの会」というNGOの代表をしており、来月２−３日に

行われる予定の共催イベントの詳しい案内が書かれてあった。

「あおいちゃん、来月石巻に行かない？」

　わたしは自分の部屋を出るとリビングにいたあおいちゃんに声をかけた。

「以前聞いたものだよね？行きたい。」

目を輝かせてあおいちゃんが言う。

「そうだよ。これが詳しい案内」

　わたしはスマホの画面を見せながら言った。

「ヘ〜楽しそう！マンガ家さんとのトークショーもあるんだ」

「ええ、そうよ」

「コメットさん、石巻に行くの？」

台所で夕食の準備をしていた沙也加ママが聞いてきた。

「ハイ。半年ぶりです」

「そう、気をつけてね」

「いいな〜。僕たちも行きたかったな」

「でも私達は文化祭があるし〜」

とリビングにいたツヨシ君、ネネちゃんが言った。

「そ、そうだね。今年は見に行けなくてごメン」

とわたしが言うと、

「みんな、夕食の準備を手伝ってくれる？」

と沙也加ママが言ったので、

「ハ〜イ！」

みんなが一斉に答えた…。

　

 22:30

 その夜、わたしは約３年８ケ月前の『あの日』のことを思い出していた…。

…あの日は３時のおやつの準備をしていた。ほぼ準備が終わり、後はお当番で

ある宇宙組の子ども達が来るのを待つばかりとなっていた。突然、地面が縦に

小刻みに揺れ始め、それから大きな横揺れが２分位続いた。すぐに子ども達の

所に飛んで行き、身を守る行動を取らせたが、幸いにも棚から物が落ちるよう

なことはなかった。しかし揺れの大きさと長さから（どこかで大きな被害が

出ているに違いない）と思ったわたしは子ども達を落ち着かせると、情報を

得ようとした。その時、ムーブメントさんが現れてこころに語りかけてきた。

「（コメットさん、大変。東北地方沿岸でとても大きな地震が起きたわ。津波

が海岸に向かっているわ。これから教える場所にすぐに向かって欲しいの）」

「（津波は後どれ位で到達するの？）」

「（早い所は後４０分位よ）」

「（わかったわ。でも、ここにいる子ども達のことも心配だけど）」

「（大丈夫。ここではこれ以上大きな余震は起きないわ。ここの海岸にも

３〜４時間で津波がくると思うけど、高さは１〜２メートル位だから、ここ

までは来ないわ。一方、あなたに行ってもらいたい所の津波は最大約３０

メートルだわ）」

「（さ、30 m!すぐに準備するわ）」

わたしはそう言うと、園長先生等に事情を話し、出発の準備をした。そして

ラバボーを呼び出すと、アガペー変身し、更にスーパーバージョンに変身して

飛び乗った。

「なつね、後はよろしく。向こうの状況によるけど、２〜３日は戻ってこれな

いかも」

「まかせといて。こっちは何とかするから。そっちこそ気をつけて。まだ向こ

うの状況がほとんど入っていないけれど、相当規模の大きい地震だったし、

大津波警報も出ているわ」

「わかったわ。でも、こっちもわたしだけじゃなくて何人か来るわしいわ。

じゃ〜行ってきます。ラバボー、行くよ」

「わかったボー」

そうラバボーが言うと、わたし達は一気に空に舞い上がったー

ーそれから約３５分後、わたし達は東京都ー埼玉県ー千葉県ー茨城県を経て

福島県に入り、宮城県上空を飛んでいた。関東地方では大きな被害の出ている

所を見かけることは少なかったが、福島県に入ると、がけ崩れや倒れた建物を

良く目にするようになった。宮城県に入る少し前から海岸沿いを飛んでいた

が、まだ津波が来た様子はなかった。しかし、ムーブメントさんが再び現れて

「コメットさん、海岸を観て」

と言った。そこでかなり離れた前方に見える海岸を観ると、遠くまで潮が引い

ているのに気づいた。

「潮が引いている！もうすぐ津波が来るのかしら？」

「そうよ。後４〜５分だわ。このままあの湾の少し奥の川の中州に向かって」

「わかったわ」

わたし達は少しづつ高度とスピ−ドを下げながら石巻湾を目指した。間もなく、

南東方向から一筋の大きな波が来るのが見えた。

「ひめ様、津波が来るボー！」

「ええ。何とかしなきゃ」

とわたしは言ったが、津波は思ったより速いスピードで、わたし達を抜き去る

と、高さを増しながら湾の奥に向かっていった。わたし達もスピードを上げ

ようとしたが、上手く着陸出来なく恐れがあるので、更に高度を下げつつその

まま後を追った。波は岸壁を超え、海岸沿いにある水産加工工場などを飲み込

んでいく…何もできなかった。もう少し何か出来ると思っていたのに…

　わたしは軽くショックを受けながら、バトンから出る一筋の光に従って、

河口から少し入った、銀色の卵形の屋根の建物に向かっていった。建物は半分

程水没し、津波は更に奥に向かっていた。その時、

（「助けて！」）

と叫ぶ「こころの声」が聞こえてきたような気がした。

「ひめ様！」

ラバボーの声に前方を見ると、津浪に流されている一人の少女の姿が目に飛び

込んできた。わたし達は猛スピードで少女に近づくと、手を伸ばして彼女をラ

バボーの上に引っぱり上げた。

「もう大丈夫だよ。初めまして。わたしはハモニカ星国の王女、コメットよ。

ここに大きな津波が来ると聞いて、神奈川県から飛んできたの。」

とわたしが少女に向かって言うと、少女はわたしに大きなひとみを向けながら

「助けてくれてありがとう。私は石森凪と言います。実は、両親が津浪にさら

われてしまったの。いっしょにさがして」

と、言った。わたしは

「ええ」

と答えた…。

　それから凪さんといっしょに両親を捜したが、残念ながら見つけることは出

来なかった。夕方、あの銀色の屋根の石巻マンガ館に凪さんを送り届けた時、

そこに避難していた石の森久美子さんと館長の石の森カイトさんに初めて会っ

た。マンガ館の近くに住んでいた久美子さんはカイトさんに助けられ、それが

きっかけで結婚した事を後で知った。そして一ヶ月後、凪さんの両親が遺体で

見つかったことも…。

（「凪さん、今頃どうしているかな…」）

わたしはこころの中でそっとつぶやいた…。

 

その１「マンガ館へ」に続く…。