コメットさんの日記(最新版)最終章「いのちの最後の輝き」その4

主な登場人物:

コメットさん:13才(地球年齢も同じ)。ハモニカ星国の王女。「瞳に輝き

を持つネメシスさん達と一緒にカスタネット星国の病院星に滞在中。ネメ

シスさん達と一緒にカスタネット星国の王宮があるカスタネット星の海底

都市、アトランティワナに向かう決心をする。

メテオさん:13才。カスタネット星国の王女。コメットさんを追って同じ

くタンバリン星国の王子を探しに地球にやってきた。身寄りのないメネシ

スさんに目をとめ、良き理解者となる。ネメシスさん達と一緒に病院星に

滞在中。アトランティワナで生まれた。

ネメシスさん:65才(地球年齢も同じ)。星国の人なのに星力を全く使うことが

出来ないという特殊な性質を持つ。このため両親の死後、故郷のアトランティワ

ナから地球にひとりやってきた。肺がんのため病院星に入院し、カンは消滅した

ものの

ヤベツさん:13才。メテオさんのふたごの妹。一兆人に一人の「死にたい病」の

ため生きる意味を見出せず、5年間に300回も自殺を試みた。入院中にコメットさん達と出会う。

メテオママ:カスタネット星国の王妃。

コメットさんのお母さん:ハモニカ星国の王妃。初代コメットさんでもある。

ラバボー:コメットさんのお供&ペット。

ムーク:メテオさんのお供。

エウロパ教授:120才(地球年齢65才)。カスタネット星国最高の病院ビトで

病院星代表。ヤベツさん、ネメシスさんの主治医。

セレスさん:66才(地球年齢41才)。かつてアトランティワナ城の王族専用分

娩室に勤務していた助産婦ビト。

ジュノーさん:34才(地球年齢29才)。アトランティワナ城の王族専用分娩室

に勤務する看護婦ビト。

輝きの求道者:35才。この日記の作者。ネメシスさんのいたエトワール

鎌倉病院の臨床薬剤師。ネメシスさん達と一緒に病院星に滞在中。

 

 

1/13  8:00

 

 わたしが食堂に行くと、既にメテオさんと輝きの求道者さんが来ていた。

「おはよう、メテオさん。ヤベツさんは?」

「おはよう、コメット。今、治療中よ」

「おはよう。コメットさん」

「おはようございます、輝きの求道者さん」

「コメット、実はネメシスさんのことで話しがあるんだけど…」

「メテオさん、わたしもよ」

「私もだ。」

チてことは、もしかしてみんな同じことを考えてるの?」

「そうみたいだね。じゃー一斉に言おうか、いち、に、のさん!」

ネメシスさんと一緒にアトランティワナへ行こう!!!

「やっぱり、そうだったね。でもメテオさん、どうしてそう思ったの?」

「一晩中考えたけど、せっかくここまで来たんですもの。これを逃したら、もし

かしたらもう2度とあそこへは行けないかもしれない。ネメシスさんはもう40

年もあそこに行っていないんですもの。それに、あそこなら、故郷だし、環境も

ここと少しちがうから、ネメシスさんの体にイイかも知れない、って思ったの」

「そうわたしも同じだわ。で、いつ出発するの」

「それは私から答えよう。エウロパ教授の話しだと、もうすぐ小康状態となるら

しい。今、星力を集中させて、出来るだけそれが長く続くようにしているそうだ

けど、一応9時に終わるそうだから、その後、すぐに出発、ということになると

思う」

「9時すぎに出発出来るように星のクルーザーを手配しておいたわ」

「わかったわ」

 

 わたし達は8時半すぎに、食事を終えると、星力を集めに出かけた。そしてネ

メシスさん、ヤベツさんと一緒に星のクルーザーに乗り込んだ。

 

アトランティワナに向け発進!

メテオさんのお母さんの声が船内に響き渡った

 

9:30

 

 カスタネット星までは近いので、星のクルーザーはワープすることなく進んで

いた。わたし達はブリッジにいたが正面の窓から見えるカスタネット星が次第に

大きくなっていくのが見えた。

「ねえ、メテオさん。アトランティワナってどんなとこ?胸がワクワクしてるの」

「アトランティワナはね。カスタネット星国最大かつ最も美しい海底都市

言われているのよ。直径4 kmのバリヤー内に100万人が住んでいるわ。中心に

7色に光り輝くアトランティワナ城があって、私とヤベツはそこで生まれたの

よ。もうすぐ『本物の竜宮城』を見せてあげるわ」

とメテオさんは得意そうに言った。

「そうなんだ。早くみてみた〜い

「コメット。私がどうしてアトランティワナに行こうと思ったか、わかる?」

「メ、あ、ヤベツさん」

「私の病気はまだ完全には治っていないわ。私は13年位前、ここで生まれ

たけど、私自身は覚えていないわ。でもこの街にはその事を覚えてくれて

いる人がいるような気がするの。私がここで生まれたしるしを見つけるこ

とが出来れば、この病気も完全に治るかもしれないそう思うからよ」

「ヤベツさん、ごめんなさい」

「いいのよ。私がこういう風に思えるようになったのも、あなたやネメシスさん達のおかげだもの」

「ヤベツさんありがとう」

「コメット。もうすぐカスタネット星の大気圏に入るわ」

 目の前にはエメラルドグリーンに輝くカスタネット星が大きく広がっていた。

星のクルーザーはその中心に向って真っすぐ進んでいった。

「メテオさん、あの光は何?」

 わたしは星のクルーザーのすぐわきを通る巨大な緑色の光の帯に気づいて言っ

た。

「あれは、アトランティワナのバリヤーを維持するためにエネルギー星から送ら

れている星力よ。命綱みたいなものね」

「命綱?」

「ええ。あのおかげでアトランティワナは海水から守られているのよ」

「そうなんだ

「もうすぐ海の中に入るわよ」

「バリヤー展開!」

 メテオさんのお母さんの声と共に、船の周りを透明なバリヤーがおおった。そ

の後すぐ星のクルーザーは海の中に入っていった。目の前を様々な魚が横切って

いく。

「メテオさん、あの大きな魚みたいなものは

「あれは、サメビトよ。おととしの収穫祭の時に来てたじゃない」

「あ、そうだったね」

「ひめさま、『人魚』みたいのがまわりを泳いでいるボー!」

「あ、あれはさかなビトよ。ハモニカ星国では表面が全て海の惑星、アクエリア

スにいるのよ。ラバボーは見たことなかったっけ?わたしもまだ直接見たことな

いけどそうよね。メテオさん」

「ええ。もうすぐアトランティワナよ。輝きが見えてきたわ」

「ほんとだ。下の方が白く光ってる」

「あれがアトランティワナを囲むバリヤーよ。一番下に入り口があるわ」

 白い輝きはあっという間に大きくなり、

ドーム状のバリヤーに囲まれたアトランティワナが見えてきた。

「キ、キレイ

 7色に光るアトランティワナ城を見ながらわたしはそれ以上言葉が出なかった。

「スゴイボー。ホントに7色に光ってるボー!」

「オーホッホッホ。どオ、あの7色の輝きは。あなたの国の『星のお城』なんて

めじゃないワ。私はここで生まれたのよ。いいでしょ〜」

「さすがカスタネット星国で一番美しい海底都市と言われるだけあるボー。ねえ、

ひめさま」

「うん―――

 アトランティワナ城は正面手前に7つ、奥に2つの塔があり、中心に近い程太

く、高くなっていた。まん中の塔は高さが約400 mに達しており、それぞれの塔

が異なる色に光り輝いていた。確かに自分が見ても星のお城以上にキレイだと、

認めざるを得なかった。

「アトランティワナは深さ約1000 mの海底にあってドームの高さは500 mもあ

るのよ。あそこの金色に光っている門の近くにバリヤーの入り口があって、この

て門の手前の『港』に泊まるのよ。あそこだわ」

「船みたいのが泊まってるボー」

「間もなく本船はアトランティワナに到着します。下船の準備を」

というアネウンスの直後、船のバリヤーとアトランティワナのバリヤーが一つと

なり、次の瞬間にはバリヤー内に入っていた。

「バリヤー解除!港のSブロックに停泊する」

とメテオさんのお母さんは言った後、

「もうすぐ着くわよ。Sブロックには『海の使い』が来てるから、それに乗って

お城に行くのよ」とわたし達に言った。

「ネメシスさんも?」

「ええ。とりあえず城内の医務室に行ってもらうわ」

「メテオさん、『海の使い』って?」

「カメみたいな形をした乗り物よ。ホントは『タートルカー』って言うらしいけ

ど、ここではみんな『海の使い』って呼んでるわ」

 

 そのころネメシスさんは船内の病室で輝きの求道者さんの治療を受けていた。

ネメシスさんはメモリーボールから映し出されるアトランティワナの映像を見な

がら

(キレイだわ40年たっても少しも変わっていないわ。戻ってきて良かった

と感慨に浸っていた。

「もうすぐ港に着きますよ。メテオさんのお母さんの話しでは、一旦アトランテ

ィワナ城に向かうそうです」

「そう

ネメシスさんは目の前に広がる7色の輝きを見つめながら言った。

 

10:00

 

 わたし達は船を降りると迎えにきていた「海の使い」に乗り込んだ。大きさは

縦横5 m位。中心の甲羅の部分に25名が乗る事が出来た。「海の使い」は街の

門をくぐると大通りをまっすぐ城に向って進んでいった。わたし達がいる甲羅の

部分は透明になっていて、360度回りを見回すことが出来た。多くの人やホシビ

ト、家々や大きな建物。正面にそびえ立つアトランティワナ城それらの輝きに

わたしは圧倒されていた。やがて「海の使い」は城門をくぐって前庭で停止した。

 わたし達はそこで「海の使い」を降り、城内に入った。ネメシスさんとエウロ

パ教授、輝きの求道者さんは一階の医務室へ向った。一方、わたし達は中心の塔

のてっぺん近くにあるメテオさんの部屋(王女の間)に向った。メテオさんのお

母さんの部屋(王妃の間)はその上にあった。

「ヤベツ。もういいわよ」

王女の間に入ってメテオさんが言った。

「シュテルン。あ〜ちょっと疲れたわ。誰かに何か言われないかと気になってし

まって

と変装を解いてメテオさんと同じ姿になったヤベツさんが言った。

「仕方がないわ。無用な混乱を与えたくないというお母様の命令だもの。でもあ

なたの病気が治ればその必要もないわ。これから自分の生まれた『あかし』を

探しに行くんでしょ?一緒に行きたいとこだけど、私はネメシスさんの所に行

くわ。コメット、� なたはどうするの?」

「ネメシスさんとも一緒にいたいけどやっぱり、わたしはヤベツさんと一緒に

行くわ。一人じゃ心配だし、その方が早く見つかると思うわ」

「ちょっと、あなた達、ここに来るのは初めてでしょ〜。誰か案内人がいるわね。

ムーク、あんた、2人と一緒に行きなさい」

「は、ハイ、し、しかし

「私は大丈夫よ」「わかりました」

「それじゃ〜」

 

 メテオさんが出ていってしばらくしてわたし達は王女の間を後にし、城内の

色々な人やホシビトにヤベツさんのことをさりげなく聞いてみた。ところが

13年前の事とは言え、誰もヤベツさんがここで生まれたことを知らなかっ

た。

それどころか、ヤベツという名前さえ、聞いたことがない、という人がほとんど

だった。

 

「ヤベツ様。やはりあなた様を取り上げられた助産婦ビトと、担当の看護婦ビト

に聞くしかないのでは」

「ムーク。その人達は今どこにいるの?」

「一階の医務室の隣の王族専用分娩室でお聞きになれば分かるかと。今でもいら

っしゃるかも知れません。確か助産婦ビトはセレスさん、看護婦ビトはジュノー

さん、だったと思います」

「よく覚えてるわね。じゃ〜、そこに行くわよ」

「ついでにネメシスさんの様子も見れるしね。早くいこ」

 わたし達は一階に向った。

 最初に医務室を覗いて見たが、ネメシXさん達はいなかった。多分ネメシスさ

んが住んでいた所に向ったのだろう。そこでわたし達は王族専用分娩室に行き、

セレスさん、ジュノーさんについて聞いてみた。

「メテオ様。コメット様。初めまして。私がジュノーでございます。残念ながら

セレスさんは2年前にここを辞められて、今はC-11ブロックのh地区の保健婦

ビトととして働いていらっしゃいます」

ジュノーさん、13年位前に『ヤベツ』っていうへその緒が首にからまっ

た赤ちゃんをお世話しなかった?

ジュノーさんはしばらく考えていたが、

さあ〜。覚えておりません。『ヤベツ』というお名前は星国では珍しいと

思いますから、私が担当していれば多分覚えていると思うのですが。お

役に立てなくて済みません。でも、失礼ですがメテオ様、どうしてそのよ

うなことを?

と答えた。

ヤベツさんはこの答えにとてもがっかりしたようだった。

「あ〜いや、ちょっとお母様から頼まれただけだから〜気にしなくていいのよ。

それより、もう一つ聞きたいことがあるんだけど」

「何でしょうか」

生きるって、どんなこと?死ぬって、どんなこと?

ジュノーさんは少し考えていたが、

「それはやはりこれを見て頂くのが一番だと思います。こちらへ」

と言った。わたし達がついていくと、小さなベットに生まれたばかりの赤ちゃん

が寝ているのが見えた。ジュノーさんは赤ちゃんを抱き上げると、わたし達に見

せながら言った。

昨日生まれたばかりの赤ちゃんです。私はこれまで看護婦ビトとしてた

くさんの赤ちゃんを見て参りました。みんなこの『いのちの最初の輝き』を持っております

「『いのちの最初の輝き病気の赤ちゃんでも?」

そうでございます。そのような赤ちゃんを担当したこともありますが、例外なく持っています。それぞれ違いますがメテオ様。抱かれますか?」

「ええ。やわらかい。はだがツルツルしてる。かわいい☆」

これが『生きるということ』だと思います。うまく言葉には出来ませ

んがいえ、もしかしたら『言葉だけでは十分表現しきれないもの』かも

しれません。メテオ様。どうされました?」

「いえ。何でもないわ。コメット。あなたも抱いてみる?」

「ええ。ちっちゃくって、フニャフニャしてる。かわいい〜☆

 そう言いつつ、わたしはヤベツさんの目に光る涙を見のがさなかった。わたし

にはわかっていた。ヤベツさんは自分の生まれた時のことを思っているにちがい

ないことを

(ここが私の生まれたところでも私はこの子とは違う

「ジュノーさん。有難う。コメット。そろそろセレスさんの所に行くわよ」

「ええ。ジュノーさん、ありがとう。この子からもいっぱい輝きもらいました」

「お二人ともお気をつけて。あ、セレスさんの住所ですが、ここに書いてある通

りです」

  わたし達がそこを出た直後、ティンクルホンが鳴った。急いでとると                             

「コメット、今、どこ?」

とメテオさんの声が聞こえた。

 「メテオさん。あなた達が出てきたところ。そっちは?」                             

 C-11 ブロックh地区のネメシスさんの隣の家よ」                     

 「そこってもしかしてセレスさんて言うんじゃない?わたし達もこれからそこ

へ行くのよ」                                                                               

 「そうだけど、どうして?」                                     

 「後で話すわ」                                                                          

 「じゃーまた後で」                                                               

「お姉様達はセレスさんの所に行っているのね」

「ええ」

「それじゃ、ムーク。私達をセレスさんの家まで案内して」

「かしこまりました」

 

 わたし達はムークさんに乗ってアトランティワナ城を後にした。

 

11:30

 

 アトランティワナは城を境に門のある側がA,Bブロック(Aが左)、反対側が

C,Dブロックの、大きく4つに別れており、各ブロックは更に城に近い方から順

に、112に分かれていて、更にa~h8地区に分かれていた。

 わたし達はムークさんに乗ってセレスさんの家のすぐ近くまで来ていた。この

辺は住宅街で、周囲にはたくさんの家があった。

 

「どうやらあの家のようです」

「メテオさんの輝き、感じるボー」

「となりは空いてるわ。あそこがネメシスさんの家があった所かしら」

「たぶん。あ、あれは『海の使い』だわ。間違いないと思うわ」

 

わたし達はセレスさんの家の前まで来た。

「あ、中から誰か出て来るボー」

「 輝きの求道者さんだわ」

「みんな、よく来たね。セレスさんは今ネメシスさんと話しがはずんじゃって、

何せ40年ぶりだからね〜もう一時間近くずっ〜と話してるよ。それで私がこう

して迎えに来たってわけなんだ」

「ってことはまだ小康状態が続いてるってことですよね」

「ああ。ここへ来る前よりも元気になっていると思う。さ、こっちへ」

「おじゃまします」

 

 わたし達は案内されるまま、セレスさんの家の中に入り、2人がいる部屋まで

行った。セレスさんはネメシスさんより一つ上の66才だそうだが、ネメシスさ

んよりずっと若く見えた。輝きの求道者さんの話しによると、これは25才まで

は星国の人と地球の人の年齢は同じだが、それ以降は星国の人の方が寿命も長く、

老化のスピードも遅くなるためとのことだった。しかもこれは遺伝的な違いによ

るものよりも星国と地球の環境(輝き)の違いによるものらしく、ネメシスさんは星国の人だけれど、丁度25才の時から地球に住んでいるので地球年齢と絶対

年齢は同じになる一方、セレスさんは星国に住んでいるので、地球年齢に換算す

ると41才となり、24才も若い計算になるからである。

「ってことは輝きの求道者さん、わたし達星国の人は、地球では星国にいる程長

く生きられないってこと?」

「そうかもしれない。でもあくまで平均寿命だからね。実際は人によっても違う

と思うけど」

 

「 セレスさん、初めまして。ハモニカ星国王女のコメットです。こちらはメテオ

さんの双子の妹のヤベツさん」

「初めまして。カスタネット星国王女のヤベツです。聞きたいことがあるの」

「初めまして。本当にメテオ様と良く似ていらっしゃいますね。驚きました」

「セレスさんは2年前までアトランティワナ城の王族専用分娩室にいましたよ

ね」

「はい」

「実はセレスさん、私は13年位前にそこで生まれた時、セレスさんに取りあげ

て頂いたはずなんですけど、覚えていますか」

13年前。ああ、あの時ですね。王妃様がここに来られて、女の子をお

産みになった時ですね。その赤ちゃんは確かに私が取り上げさせて頂きま

した

「そうそう、その赤ちゃんはどんな様子でしたか」

「いや〜もう、とってもかわいくてお元気そうで

「それって私じゃなくって」

「 メテオさん」

「その赤ちゃん、へその緒が首にからまってませんでしたか」

「いいえ」

「その時取り上げられたのはその赤ちゃんだけですか。他には覚えていません

か」

セレスさんはしばらく考えていたが、

「残念ですが、覚えておりません。それにメテオ様に双子の妹様がいら

っしゃることは今日、初めて聞きました」

と答えた。

この言葉を聞いてヤベツさんはかなりショックを受けたようだった。

ヤベツさんは部屋を飛び出して、泣いていた。

 

「ヤベツさん。かわいそう」

「申し訳ございません」

「あなたが悪いわけじゃないわ。多分お母様がこの秘密が知られないように、み

んなの記憶を消したんだと思うわ」

「そ、そんなってことは、ヤベツさんの『生まれたあかし』を見つけるこ

とは出来ない、ってこと?」

「そうかもしれないわ。でも、この街には100万人もいるのよ。その全ての人の

記憶を消したとは考えにくいし、誰か一人位は覚えている人がいるかもしれない

「そうだよね。そう信じなきゃ。わたし、ヤベツさんと一緒に街の人達に聞いて

みる。ネメシスさんもそう思うよね、ってあれ、ネメシスさんは?」

「ヤベツのとこ」

 

ヤベツ様」

「ネメシスさん」

「ヤベツ様のお気持ち、良くわかります。私もここを出る時はそうでしたから。

でも今は違います。セレスさんも、40年ぶりなのに、私のことを覚えて下

さったばかりか、私の帰りをずっと待っていた、とまで言って下さいまし

た。私はここに戻ってきて本当に良かった、と思っております。これもヤベツ様やメテオ様達のおかげでございます

「え、私が…」

「こうしてヤベツ様とお会いすることが出来たからこそ、私もここに来る

決心がついたのでございます。ヤベツ様。私もここに来るまでは正直申し

上げて不安でした。あれからもう40年もたっております。自分を知り、か

つ快く受け入れて下さる人がもういないかもしれないとしかし、セレス

さんとお会いして、その不安が喜びに変わったのです。ヤベツ様。どうか

最後まであきらめられませんよう、きっとあなた様を知っておられる方に

お会い出来ると思います」

とネメシスさんはヤベツさんの手をとって優しく言った。

「ネメシスさん…」

 ヤベツさんは再び泣き出してしまった。

そんな2人の背中をわたしは黙って見つめていた

 

15:30

 

  セレスさんの所でお昼を食べた後、わたしとヤベツさんはそこを出て、ヤベツ

さんのことを知っている人を探した。直接聞いたり、星力を使って呼び掛けたり、

色々やってみたが、最後のA-12ブロックまできても、ヤベツさんのことを知っ

ている人は誰もいなかった。

「コメット〜やっぱり誰も私のことを知らないわ」

ヤベツさん。最後まであきらめないで。もう少し頑張ろう

「わ、わかったわ」

 わたし達は最後の望みをかけて、ここでも聞いて見たが、やはり手がかりは得

られなかった。とうとうわたし達は最後のh地区まで来てしまった。ここは街の

はずれで家も少なく、バリヤーがすぐ近くに見えた。

 

ウーン、もうガマン出来ないわ!やっぱり誰も私のことを知らないのよ。

みんな私のことを忘れてしまったか、記憶を消されてしまったのよ!

ヤベツさん、そんなこと言わないで」

もういいわ。コメット、ついてこないで」

そう言ってヤベツさんはバリヤーの方へ走っていった。

ヤベツさん!」

 そう言ってわたしは後を追おうとしたが、ティンクルホンが鳴った。あわてて

とると、メテオさんからだった。

コメット、ネメシスさんが大変なの。すぐ戻ってきて」

わ、わかったわ」

「ラバボー、行くよ。ムークさん、ヤベツさんをお願い」

「わかりました。コメット様」

「ひめさま、星力なくなりかけてるボー」

「たいへん。すぐに集めなきゃ。ラバボー、お願い」

「ジャンプー」

 

 わたしは星力を集めるとすぐにネメシスさんの所に向った。

コメット〜遅いじゃないのよ」

「ごめ〜ん。星力、集めてたものだから。ネメシスさんの様子はどう?」

 

「それが、あなた達が出ていった直後から、容態が急に悪くなって少し前から

とうとうベットに寝たままになってしまったわ。とても苦しそう。エウロパ教授

の話では輝きが弱くなっているみたいよ。それで少し前にこれを渡されたの」

「これってもしかしてメモリーボール?」

「そうだと思うわ。13年前、私の母から預かったものらしいけど、『私に万一の

ことがあったら、これを王妃様に渡して下さい』ってコ、コメット、ネ

メシスさん、このまま死んじゃうの?

「そ、そんなだいじょうぶだよ」

で、でも、どうして?もう星力も全然効かないのよ。私はどうすればい

いの?私、これ以上ネメシスさんが苦しむのを見てられなくて

メテオさんとその時、

お前達、何をやってるんだ!

あの声が聞こえた!

ケースケ!!」

バカ!お前は『最後までネメシスさんと一緒にいる』と決めた

んだろう!今のお前達に出来ることはそれしかないんじゃない

のか!現実から逃げちゃいけない。最後までまっすぐ見続けるん

だ!」

わたしの中で何かが変わった。わたしは不思議と心が落ち着くのを感じた。

ケースケのいう通りだわ。メテオさん、ネメシスさんと最後まで一緒に

いよ」

わかったわ

 

 わたし達はネメシスさんの寝ている部屋に入った。部屋の空気が明らか

に違っていた。ベットのまわりにはセレスさん、輝きの求道者さん、エウ

ロパ教授もいた。もう誰も星力をあててはいなかった。

 わたし達は驚いた。ネメシスさんのからだがほのかに輝いていた。輝き

は少しずつ強くなっているように見えた。

この輝きは一体

これが『いのちの最後の輝き』よ」

 わたしはそう言うことが出来た。

 ネメシスさんの顔を見ると、あんなに苦しそうにしていたはずなのに、

とても安らかになっていた。だれも一言も言わなかったが、それを見た瞬

間、わたしにも分かった。

もうすぐネメシスさんの「いのちの最後の輝き」が消えてしまうことを

 

16:15

 そのころヤベツさんは町の城壁のすぐ下まで来ていた。

 ヤベツさんはしばらく泣いていたが、やがて立ち上がると、

「そうよ。この街があるからいけないんだわ。この街ごと私が死

んでしまえば、もう私は苦しい思いもしなくてすむわさあ、み

んな一緒に死ぬのよ」

そう言ってバトンをバリヤーに向けると、氷のような冷たい声で

「シ・ュ・テ・ル・ン」

と、言った。

 すると青白い光がバトンから放たれ、バリヤーに命中した。するとバリ

ヤーが破られ、大きな音とともに大量の海水がなだれ落ちてきた。それを

見ながらヤベツさんは

「ハハハハこれでいいわ。これでやっと私も死ねるわ」

と言った。

 

 ネメシスさんの輝きはいよいよ強くなっていった。

こ、これは星力!

ってことはつまり、ネメシスさんは今星力を使ってるってこと?」

ああ。多分無意識だと思うけど

わかったわ!ネメシスさんは星力が使えないんじゃなくて、最

後の最後に使うために今まで星力を蓄えてきたんだわ!

「でも何のためにそれだけの力を

「それはあ、ネメシスさんの輝きが!

 ネメシスさんのからだはひときわ白く輝いた後、からだから輝きが大き

な白い球のようになって飛んでいった。なぜかメテオさんが持っていたメ

モリーボールも一緒だった。

ラバボー、急いで」

 わたしとメテオさんはラバボーに飛び乗ると、白い輝きを追いかけた。

 

 海水は既にヤベツさんの腰の辺りまで来ていた。逃げまどう人々の姿を

見ながら

「ハハハハ、みんな私といっしょに死んでしまえ!」

と言ったヤベツさんの前に大きな白い輝きが現れ、あっと言う間にヤベツ

さんのからだに吸い込まれてしまった。次の瞬間、ヤベツさんのからだが

まばゆいばかりに光り輝き、そこから一本の線が海水が漏れている所に伸

び、穴をふさいでしまった。

同時に残った海水もそこから伸びた輝きによって消えてしまった。

 

 わたし達は少し離れた所からそれを見ていたが、しばらく声も出せなか

った。

 

おおい〜コメットさぁ〜ん!」

メテオさま〜!

 

 それらの声にわたしはようやくわれに返ると

ハ〜イ☆!」

と答えた

 

16:25

 

 輝きの求道者さん、ムークさんと合流したわたし達はヤベツさんの所に行った。

ヤベツさんは倒れていたが、わたし達の気配に気付くとすぐに起きあがった。そ

の様子を見てわたし達は驚いた。

「ヤ、ヤベツさん、このドレス

見たこともないわ。でも、キレイ。これが新しい、『わたし』あの光

を受けて私は新しく生まれ変わったの。でも、ちゃんとここに生まれたあ

かしも持っているわ。このメモリーボールよ

「あ、それは私がネメシスさんから預かったものだわ」

これは多分お母様が私の出生に関する記憶をこれに記録して、みんなの

記憶を消した後、地球にいたネメシスさんに預けたんだと思うわ。捨てる

わけにもいかないし、かと言って星国に置いておくのもマズイと思ったの

ね。確かに秘密を守るのには一番合理的だと思うわ」

 

 わたしははたとあることに気付いた。

輝きの求道者さん、ネメシスさんは

なくなられた。あの後すぐ行こう。ネメシスさんの所へ

「はい」

 わたし達はセレスさんの家に向った。

 

16:35

 わたし達はネメシスさんのいた部屋に入った。中はうす暗かった。セレスさん

のすすり泣く声が聞こえた。

「ネメシスさん

 メテオさんはネメシスさんの亡きがらの側で泣き始めた。わたしもつられてと

ても悲しくなった。と、その時、ヤベツさんがメテオさんの手を優しくとって言

った。

お姉様。そんなに泣かないで。

ネメシスさんの輝きは今、私の中に生きているのよ。

でもネメシスさんは私だけじゃなく、このアトランティワナにい

る、みんなのいのちを救ったのよ。だから、ほんとはここにいる、

みんなの中にネメシスさんの『いのちの輝き』があるはずだわ」

私の中にネメシスさんがいる

お姉様。私、これまで自分がなぜ生きているのかわからなかっ

たわ。でも、ネメシスさんのおかげで、今はわかるの。私がなぜ

生まれた時から『死にたい病』だったかも

 それは、かつての私と同じように、『死にたい病』なんかで生

きる意味がわからず、苦しんでいる人達に、この『いのちの輝き

の素晴らしさ』、『生きることの素晴らしさ』を伝え、生きる希望

を見つけるのを助けてあげるためだと思うの。

 私『生きる』って『ひとに、自分の輝きを分け与えること』じ

ゃないか、って思うようになったわ。そして、『死ぬ』ってこと

は『ひとに、自分の輝きを“全て”あげること』ネメシスさん

が私にしてくれたようにだと思うわ。お姉様は?」

私は『生きる』って『もう一人の自分に出会うこと』じゃない

かと思うわ。私はこれまで、たくさんの『もう一人の自分』と出

会ってきた

 ある時は『北風ピープー』だったり、ある時は『私の姿をした

コメット』だったり、そして今回は、『ヤベツ』、私のふたごのあ

なたよ。そして『もう一人の自分』と出会う度に私は成長してき

たわ。そして私が『もう一人の自分』と出会う必要が無くなった

時、それが『死ぬ』ってことなのかしらね。コメット、あなたは

どう思う?」

「わたしは

『生きる』って『みんなといっしょにいる』ことなんだと思いま

す。

みんなで一緒に泣いたり、笑ったり、輝いたり、輝きを探した

り、輝きをもらったり、あげたり、歌を歌ったり、演奏したり、

おいしいものを食べたり、お腹をすかせたり、愛しあったり、怒

ったり、楽しんだり、苦しんだり、悩んだり、失敗したり、それ

を乗り越えたり、感動したりまだまだあると思うけど…

何かをしている時、『一緒にいる誰か』を感じること、

それが『生きる』ってことなのかな、と今は思います。

でも『生きる』ってことは『常に変わっていく』ってことでもあ

ると思うから、また変わっていくとは思うけど…。だから『死ぬ』

ってことは『たったひとりになること。変化しないこと』なのか

「そうかもしれないね」

「輝きの求道者さん!」

「みんな、素晴らしい答えだと思うよ。私は『生きる』ってこと

は『自分の人生のシナリオを見つけていく』ってことじゃないか、

って思うんだ。私達には誰が創ったかわからないけれど、どうや

ら一人一人違った『シナリオ』というのがあって、始めはその内

容は自分にもわからないんだ。でも、成長するに従って、後から

少しずつ見えてくるんだ。この『シナリオ』がわかればわかるほ

ど楽しいし、自分がなぜ生きているのか、が分かってくると思う

んだ。そして『死』を迎える時、その『シナリオ』は完成するん

だ。だから『死ぬ』ってことは『自分のシナリオを完成させるこ

と』って

言えると思う」

輝きの求道者さんはそう言うと、ちょっと残念そうに言葉を続けた。

「実はさっき地球から電話があって、勤務先が変わるから、戻らなければ

ならなくなったんだ。この後のネメシスさんの葬儀にも、是非出たかった

んだが

「ってことは、もう会えないってこと?」

「ああ。すぐに向こうに行かなきゃいけないから。でもきっとまた会え

るよ。そうそう、ちゃいさんの掲示板にはこれからも書き込みを続けるか

ら、そこにアクセスすればいつでも会えるよコメットさん、色々ありが

とう。この3日間、楽しかった。このことは忘れられない思い出になると

思うよ」

「わたしも色々教えてもらったしほんとうにどうもありがとう」

「メテオさん、あなたからは『ほんとうのやさしさ』を教えてもらったよ。

どうもありがとう」

こちらこそ、病院星では助けて頂いて、ありがとう。私は、あなたから

『ほんとうの強さ』を教えてもらったような気がするわ」

「ヤベツさん、あなたの人生はこれからだ。ネメシスさんからもらった『い

のちの輝き』を大切に

「わかったわ。色々ありがとう」

 家を後にする輝きの求道者さんの後ろ姿を見ながら

(輝きの求道者さん、またいつか会いたい

そうわたしは思った

 

1/13  19:00

 それからメテオさんのお母さん等も出席して、ネメシスさんの葬儀が行われた。

人口100万人のアトランティワナを救ったことから、特別に宇宙葬が行われた。

荘厳で、かつ輝きに満ちた葬儀だった。ネメシスさんが眠るひつぎが宇宙(そら)

にただようのを見送りながら、わたしは

(自分が死ぬ時は、ネメシスさんのように死にたい)

そう思った。

 翌日、アトランティワナ城でヤベツさんの「全快祝い」が行われ、カスタネッ

ト星国の王女として公式に認められることになった。ヤベツさんはとても嬉し

そうだった。全身から「いのちの輝き」があふれていた。そのまぶしいほ

どの輝きに、

(ひとってこんなに輝くことが出来るんだ。わたしもそうなりたい)

と思った。それからわたしとメテオさんはヤベツさんと別れ、地球に向かう星の

クルーザーに乗り込んだ。

「地球に向けて出発!」

メテオさんの声が船内に高らかに響き渡った

エピローグに続く

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