「それではモモさん、お昼に行ってくるわ。後はよろしく」

 ちひろはヒューマイドの「モモ」に声をかけた。モモは正式名称

HU798000MO2100という人間そっくりの姿と人が持つような感情も備えた「ヒ

マノイド」というロボットで人工皮膚表面にある太陽電池などでエネルギー

を補給する為24時間活動することも可能で、夜間や休日は彼らが主にセンター

の業務を支えていた。

「わかりました。今の所システムに異常はありません」

 モモがやわらかい声で答える。ヒューマノイドには人間のように名字はなく、

通常ハンドルネームやニックネームで呼ばれていた。ピンク色が好きで優しいモ

モはここに来てすぐにこの名前で呼ばれるようになった。

 ちひろは直人と別棟にある専用食堂に向かった。良く晴れており、気温は10

度位と、ほぼ平年並だったが、風はほとんどなく、それ程寒さは感じなかった。

「ちひろさん、今日は何にしましょうか?」

「え?私はこのチキンライスとデザートにするわ」

「あ、そうじゃなくて、『今日のシチュエーション』のことですよ」

 「そうね〜。今日はクリスマスイブだから、それにふさわしいものがいいわ」   

 食堂の中はいくつもの個室に分れており、その中では頭の中でイメージするだ

けで本物そっくりのバーチャル空間を生み出すことが出来た。

「じゃ〜まずはこんなところ?」

 直人がそう言うと目の前にてっぺんに銀色の星が光り、イルミネーションで飾

られた大きなクリスマスツリーとその周りを囲むようにあるやや小さなツリーや

そこに降り積もる雪などが出現した。

「なかなかきれいね。でも私のイメージはそうじゃなくてこれよ」

 ちひろがそう言うと今度は2人の周りが宇宙空間になった。星達の輝きがクリ

スマスツリーを創り出し、流れ星が雪のように降っていた。

「どう?」

 チョッといたずらっぽく笑いながらちひろが言う。直人はちひろのそんな所

に惹かれていた。

「ちひろさん、ス、スゴイ〜」

 直人の声のトーンが少し高くなった。

「ありがと。もうすぐ来るみたいよ」

 ちひろがそう言うとすぐ、丸いテーブルの中央が光り、先程オーダーしたメニ

ューが転送されてきた。

「おいしい。でも先生はどうしてここには来ようとしないのかな?」

 ランチを食べながら直人が言うと、

「先生は幻影じゃなくて『やっぱり本物がいい』そうよ。お昼も奥様の手作りの

ものだし」

 チキンライスをゆっくり口に運びながらちひろが答えた。

 この時代は各家庭に家事専用のロボットやヒューマノイドが広く普及し、ひと

が自分で家事をすることが少なくなっていた。

「ところで今夜、どうします?」

「そうね〜」

「ちょっといい所を知ってるんですけれど、食事に行きませんか?」

 直人がそう言った直後、2人の目の前にモモさんの立体映像が現れた。

「ちひろさん、直人さん、大変です。またあの信号が入りました」

2人は急いで部屋を出た。

 

 2人がセンターに戻ってみると部屋の中は再び緊張感に包まれ、人やヒューマノイドが慌ただしく動き回っていた。

「信号は先程より強く、セキュリティーシステムを通過して来ています。現在、

プラズマの温度が低下し、人工太陽の出力が5%減少しています」

「ありがとう。まだ侵入は排除出来ていないの?」

「はい。先の侵入の時の様にバックアップシステムに切り替えたのですが、今度

はマザーコンピューターの方にも侵入されてしまって…」

「え!あの世界一のセキュリティーシステムを誇るマザーコンピューター

のシステムが破られるなんて!」

 直人が思わず声を大きくして言う。

「信じられないわ」

「でも残念ながら本当だ。栗山君」

 渡辺のややゆっくりとした、落ち着いた声がひびき、緊張感が少し和らいだ。

「先生!」

「でも今センターに磁気シールドを展開させたから、これで外部からの侵入は防

げるだろう。信号はどうやら地球外から来ているらしいからな」

何だって、ってことはもしかして…」

「ああ。われわれがまだコンタクトをとっていない、異星人からかもしれ

ない」 

 この時代には既に地球から1000光年以内の幾つかの惑星に住む異星人との

交流が始まっていたが、まだあまり一般的ではなかった。

「渡辺先生。信号が消失しました!」

 モモさんが嬉しそうに言った。

「良くやった!栗山君、ニューヨークのセンターに報告すると同時にあち

らの様子も聞いてみてくれ」

「はい。先生、あちらも侵入を排除したそうです」

 ちひろが声のトーンを少し落として言う。

「そうか。でもしばらくは警戒を続けてくれ。またあるかもしれないからな」

「わかりました」

「私はあの信号について詳しく調べてみようと思う。もしかしたら、何かのメッ

セージかもしれない」

「でも、そうだとしたら、いったい誰が、どんなメッセージを送ってきたのかな

…」

 直人が不思議そうにつぶやいた。3

 

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