「新コメットさんの日記」第2章「ミラさんと星国の断食大会」

その2「決勝」

後編

13:30

 (私達はテレサさんの部屋でシンガラという料理を作っていた。これは

ジャガイモをカレー味にして小麦粉で出来た薄い皮で三角形にくるんでサ

クサクに揚げたもので、カレーパンに近いものだ。私はまだ食べたことは

ないが、テレサさんの話しではお昼に良く食べるもので、おいしいそうだ)

「出来たわ」

 (揚げたての香ばしいかおりが鼻をくすぐる。それをかいでいるうちに、

再び強い空腹感が襲ってきた!)

「おいしそうね。ミラさん、悪いけれど、これをコメットさんの部屋に届

けてくれる?」

「テレサさん。はい、喜んで。行って来ます」

(そう言って私は部屋を出た。空腹感は更に強くなっていた。そしてコメ

ット様の部屋の近くに来た時、とうとうガマン出来なくなってしまった。

私は周囲に誰もいないことを確認してシンガラを一つつかむと口の中に入

れようとした

とその時)

「待って、ミラ!」

(との声と共にオレンジ色の輝きが私の手からシンガラを取り去っていき、

脇の通路から出て来た織恵さんの手に渡った。そして次の瞬間、織恵さん

はそのシンガラを食べてしまった)

「お、織恵さん!!」

(私はものすごい衝撃を受けた。自分の見ていることがとても信じられな

かった。織恵さんの夢は「私に勝つこと」のハズだった。もしあのまま何

もしなければ私に勝てたのに〜。空腹感は完全にすっとんでいた)

「ミラ、私はここでリタイヤするわ。ついでにこれも私が届けるわ」

「織恵さん、どうして〜」

(残りのシンガラが入ったお皿を渡しながら私はそう尋ねた)

「私は『あなたに勝つ』という夢をかなえるためにここまで頑張ってきた

けれど、もう限界だったわ。それにテレサさんや他の人の様子を見ていて、

『この人達にはとてもかなわない』とも思ったわ。でもあなたには負けた

くなかったから、ずっと様子を見ていたの。ミラ、もし、私がこれを食べ

ていなかったら、あなたはリタイヤしてたハズだから、私はあなたに勝っ

たのよ。でも、もういいの。私はもっといい夢をかなえることが出来たの

だから〜」

「『もっといい夢』って…」

「ミラさん、今日からあなたは私の『ほんとうの友達』よ。よろしく」

(織恵さんはそう言って右手を差し出した)

「織恵さん……」(私は胸がいっぱいになってそれ以上言葉が出なかった。

代わりに私も右手を差し出してしっかりと握手をした。とてもあたたかだ

った)

ありがとう(しばらくしてからようやく私はそう言った。この時から

織恵さんは「良きライバル」から「親友」になった

(ミラさん

 わたしはミラさんのこころの声を聴くのを止めて、そうつぶやいた。

「ひめさま。泣いているのかボー」

「ううん、何でもない。もうすぐミラさん達が来るわ」

 わたしは急いで涙をふいて言った

21:00

 それから16時頃ハリー君がリタイヤした。ハリー君は

「日本に留学してから、その豊かな生活に慣れてしまったみたい。向こう

にずっといればもう少し頑張れたハズなのに〜」

 と反省していた。そしてみんなはまた星のトレインでそれぞれの所に帰ってい

った。わたしはケースケにこれまでのことを報告した。

「そうか〜。その織恵って人、テレビで見たコトあるけど、なかなかやるな〜。

オレも頑張らないと〜。後8人か。随分減ったな」

「ええ。でもまだ後3週間もあるわ」

「そうだな。じゃ〜おやすみ」

「おやすみなさい」

わたしはそう言ってティンクルウインドウを閉じた

6/2 9:00 (インド標準時間)(日本&トライアングル星雲標準時間:12:00

 それから6日たったが、リタイヤした人は誰もいなかった。わたしはちょうど

テレサさん達のこころの声を聴いていた

(私達は朝3時半、まだ暗い内に起きて身支度を整えた。神に最初の祈り

を捧げた後、マリヤと一緒にイスラムの最初の祈りを知らせる音楽が響く

中、5時半頃讃美集会に出席した。7時に2回目の祈りを捧げた後、みん

なと一緒に「チャ」を飲んだ。他の人はルティと呼ばれる、小麦粉で作っ

た薄いパンを食べていた。一日の食事は2回だけで、それもシンプルなも

のばかりだった。9時に3度目の祈りを捧げた後、私達は早速何人かのグ

ループに分かれて町に出ていった。私はいつもマリヤと一緒だった。雨期

に入り、空はどんよりと曇っていて今にも降り出しそうだった。私達の脇

をリキシャ(タクシー代わりの人力車)やテンプー(3輪の小型タクシー)

などがひっきりなしに通過していく。私達は表通りを右に曲がると狭い路

地をしばらく進み、目指す家に着いた)

「サラさん、おはよう。元気そうね」

「テレサ様。マリヤ様。おはようございます。お陰様で大分元気になりました」

(私達が最近よく訪問している家の若い婦人がそう答えた。サラさんは手に悪性の皮膚癌が出来ていたが、私達の愛力による治療によりかなり良くなっていた)

「それは良かった。手を見せてくれる?」

「はい」

「まあ、ずいぶん良くなったじゃない?これから治療すれば、完全に消え

るかもしれないわ」

「本当ですか?」

「ええ。私もそう思うわ。テレサ、早速始めましょう」

「ええ」

(私達は土の壁とトタン屋根の家の中に入り、手から愛力を照射して早速

治療を始めた。すると次第にガンが小さくなり、1時間半程して完全に消

えてしまった)

「思った通りだわ。サラさん、今日で治療はおしまいよ」

「テレサ様、マリヤ様。ほんとうにありがとうございました。ご恩は一生

忘れません。お礼にお昼をご用意いたしましたので、是非お召しあがり下

さい」

「せっかくだけど〜」

「ええ。喜んで。でもテレサは今神様に断食の請願をたてているの。だか

ら申し訳ないけれど食べることは出来ないわ。でも彼女の分も私が頂くか

ら〜」(私の言葉を遮るようにマリヤは言った。私は驚いて

「マ、マリヤ!」と言ってしまった)

「テレサ、私は大丈夫。サラさん、気にしなくていいのよ」

「わかりました」

(でもどうして?あなただって断食しているんでしょ?それをちゃんと言

えば、ここでリタイヤしなくても

(私はサラさんの気持ちを大切にしたいわ)

(それは私も同じよ。だから私も

(テレサ。あなたはリタイヤするべきではないわ。前にも言ったけれど、

あなたはきっと優勝すると思うわ。だって「輝きの元である方」がそう言

っている気がするもの。そのためなら、私がここでリタイヤしてもかまわ

ないわ。テレサ。私の分も頑張ってね。私達はいつも一緒よ)

(マリヤありがニう。私はそうこころの中で言ってマリヤの瞳をじっと

見た。今日の様なことはこれからも起きるかもしれない。その時も私はあ

なたを守るわ、そうその瞳が言っているのを見て私はそれ以上何も言わな

かった)(それから間もなく、サラさんが用意したお昼を食べてマリヤは

リタイヤした。この日はニワトリが死んだので、特別に鶏肉が出された。

サラさんとマリヤの嬉しそうな顔を見て、私も少し安心した。14時頃来た

コメットさんにマリヤがティンクルホンを渡した後、数軒の家を訪問し、

話を聴いたり、病気を治したりした。17時から始まる夕方のミサに出席し

た後、私達は夕食の席についた。マリヤは、ルティに少量の野菜を包んで

食べていた。食べながら、またその後しばらく私達はお互いに今日一日の

出来事を報告し合った。それから神に祈りを捧げたりし、21時過ぎには床

についた

6/3 0:10 (日本&トライアングル星雲標準時間)(インド標準時間:6/2 21:10

「ひめさま。これで7人になったボー」

「そうだね。明日は、否、今日はみんなが来るわ。あ〜眠い。わたしたち

も寝よう」

 わたしはテレサさんのこころの声を聴くのをやめてそう言った

6/3 10:00

 その日も10時少し前に地球からの人達がわたしの部屋に来た。その中にチャ

ック・スミスさんがいるのを見て少し驚いたが、一緒にいたバーバラさんの言葉

はわたしを更に驚かせた。

「コメット、お早う。今日はまずこれをあなたに返しにきたの。リタイヤ

するわ」

 「ちょっと待って。あなたはまだ頑張れるハズよ」

「ええ。まだ食べないでいることは出来ると思うわ。でも、私はもう自分

の夢をかなえたの」

 とバーバラさんは嬉しそうに、かつちょっとはずかしそうに言った。

「ってことはもしかして〜」

「昨日、僕がプロポーズしたんだ。もちろん彼女も即刻OKだったけど」

 チャックさんがとても嬉しそうに言った。同時にバーバラさんの顔も少し紅く

なる。

「おめでとう。バーバラさん、チャックさん。式はいつ?」

「それはまだ決めてないの。まだ正式に婚約もしていないし〜でも私が

この年齢だから、たぶん2、3ケ月先ってところじゃないかしら。ねえ、

チャック?」

「まあ、結婚しても彼女には今の仕事を続けてもらうつもりだし、何か大

きな事件が起ってしまうとわからないけれどね」

「ねえ、大会最終日の来月20日もまた来れるよね?星国の教会星で式を

挙げてみない?その日はパウロ大司教も来るハズだから、わたしからお願

いすれば、司式してくれるはずだわ」

「ほんと?是非お願いしたい所だけど、2週間ちょっと後じゃいくらなん

でも早すぎるわね」

「じゃあ、とりあえず2人だけで(わたし達も立ち会うけれど)ここでし

て、後で改めて地球で結婚式を挙げればいいと思うけど、どう?」

 バーバラさんは少し考えてから、

「ええ。私もそれでいいと思うけど、チャックはどう思う?」

と答えた。

「そりゃもちろん、君の好きなようにしていいよ。オレも早く結婚したいし〜」

「じゃあ、決まりね。大司教は今日は来れないそうだから、後でわたしか

ら連絡しておくね」

「ありがとう」

「あ、そろそろ時間だわ。

 みなさん、お早うございます。ここには今チャックさんを含めて9人が

集まっていますが昨日、マリヤさんがリタイヤし、今バーバラさんがリタ

イヤしたので、残っているのは6人になります。今日も先週同様にまず残

っている人にこの一週間の様子を20分以内で話してもらった後、午後か

ら2つのグループに分れたいと思います。それでは皆さんに話してもらう

前に、バーバラさんにリタイヤした理由を話してもらいます」

「え〜実は私達、約2週間後にここで結婚することになったの

 バーバラさんは隣りのチャックさんをちらっと見ながら、ちょっと恥ずかしそ

うに、でもとても嬉しそうに話し始めた

13:00

 みんなの様子を聴いた後、お茶を飲んでから、残っている人は2つのグループ

に分れた。一つはミラさん、カロン君、テレサさん、ニック君のグループでキッ

チンルームで星国の料理を作ることになっていた。もう一つはジャンさんとジョ

ン君でレセプションルームでアフリカの飢餓の実態について星国の人達に紹介し、星力の援助を求めることになっていた。わたしはミラさん達のグループの様子を

見ていたが、17時近くになり、再び全員で集まる時間になろうとしていた時、カ

ロン君のティンクルホンが鳴った。

「はい。カロンです。え!殿下が!はい。わかりました。すぐに行きま

す」

「カロン、殿下に何かあったの?

「お姉ちゃん、大変だ。殿下の乗られた星のバルーンが故障してみんなと

はぐれてしまったんだ。さっき殿下からミニブラックホールに吸い込まれ

そうになっているから助けて欲しい、っていう電話があったそうなんだ。

すぐに行かなきゃ」

「カロン、私も行くわ」

「気持ちは良くわかるけど、それはダメだよ。今から行ったら、18時まで

にここに戻ってこれるかわからないし、相手はミニブラックホールだから

危険だよ」

「だからこそ、私も一緒に行かなきゃ。あなただけにまかせておけないわ。

殿下のことも心配だし〜」

「僕だってお姉ちゃんのことが心配だし、殿下もきっとそう言うと思うよ。

殿下にこれ以上余計な心配をかけたくないんだ。殿下は僕が必ず見つけて

助けるから。僕は殿下の主任侍従だよ。僕の輝きを信じてここは僕にまか

せて

 カロン君はミラさんの目をまっすぐ見ながら必死に訴えた。

「カ、カロン〜。わかったわ。でも私だって殿下の主任侍女よ。あなただ

けにまかせるわけにはいかないわ。愛力をあげる。バトンを出して」

「ありがとう。お姉ちゃん」

 ミラさんはバトンを出してアガペー変身(ノーマルバージョン)すると、次の

ように言った。

「輝きの元である方。私にもっと力を下さい。あなたの持っている力を私

の輝きに変えて。アガパオー!」

 すると、バトンが金色に輝き、一方の端についている星が金色に変わった。同

時にミラさんのドレスもオレンジと黄色を主体としたもの(挿し絵参照)に変わ

っていた。

「これがスーパーバージョン〜。やっぱり変身出来たわ」

「輝きの元である方、私とカロンにもっと力を下さい。あなたの持ってい

る力をどうか私達の愛力に変えて。アガパオー!」

 ミラさんがバトンをふると、オレンジ色に輝く光がカロン君のバトンに当たり、

バトン全体が輝いた。

「これで大丈夫だと思うわ」

「ありがとう。向こうについたらティンクルホンで映像を送るから〜」

「待って。カロン君。わたし達からの愛力も受けとって。」

「コメット様…どうもありがとうございます」

 わたしとテレサさん、マリヤさんはアガペーバトンを、ニック君はティンクル

ナイフをカロン君に向けて一斉にふった。

17:30

 プラネット王子は航行不能になった星のバルーンの中でミニブラックホールに

吸い込まれないよう星力を後方に放出しつつ何とか脱出しようとしていた。しか

し、もう30分もこうして星力を放出し続けているのでいかにタンバリン星国の

王子と言えど、星力も限界に近付いていた。(このまま助けが来なかったら〜)と彼が思った時、ティンクルホンが鳴った。

「もしもし、カ、カロン!やはり来てくれたか」

「はい、既に殿下の出されている星力が見えています。間もなく殿下のバ

ルーンも見えるはずです。今見えました。でもこれ以上近付くと私も吸

い込まれてしまうかもしれないので、3つ数えたら呪文を唱えて星力を伸

ばしますから、殿下も今の方向に出来るだけ伸ばして下さい。そして2つ

の星力が一つになった瞬間にバルーンから飛び降りて下さい。殿下。チャ

ンスは一度しかありません。私も全力を尽します。姉からも愛力をもらい

ました。必ずお助け致しますので、もう少しご辛抱下さい」

「わかった。僕も全力を尽す」

「では、いち、に、のさん!」

「幾千億の星の子達。キラ星の輝きを。あまたの力を。そしてみんな

の愛力を。どうか私の星力に変えて。ステラ!」

 カロン君は思いっきりバトンをふり、プラネット王子に向けて星力を伸ばした。王子も最後の力を振り絞って星力を伸ばす。

やがて2つの黄色い輝きが一つになった。

 その瞬間、王子は星のバルーンを思いっきり後ろに蹴り上げ、反動で前

に飛び出した。同時にカロン君が全力で王子を引き寄せた。

 そしてついに王子を自分のバルーンに乗せることに成功した!

「で、殿下!!」

「カロン!本当にありがとう。君のおかげで助かったよ」

「いえ、姉や、コメット様や力をくれた人達のおかげです。もう戻らなき

ゃ〜」

「カロン、あまり無理をしない方がいいよ。君は今ので相当疲れているハ

ズだ」

「殿下〜!よく御無事で」

「遅いぞ、ヘンゲリーノ。カロンがいなかったら今頃はああなっていたか

もしれないが〜」

 今まさにミニブラックホールに飲み込まれようとしている星のバルーンを見ながら王子は言った。

「申し訳ございません。こちらも殿下の輝きを捜していたのですが〜。それはと

にかく、カロンがこれから一旦ハモニカ星国に戻るそうですから、殿下はこちら

のバルーンに乗り換えて頂いて王宮にお戻り下さい」

わかった」

 そう王子が言った時、カロン君のティンクルホンが鳴った。

「はい、殿下、姉からです」

「 ミラ。心配かけたな」

「殿下〜〜!」そうミラさんは言ったまましばらく泣いていた

17:45

 それから、王子はヘンゲリーノのバルーンに乗って王宮に戻り、カロン君は星

のお城に向ったが、結局5分遅れて到着した。わたしは

「5分位遅れたからって失格にはしないから」

と言ったが、カロン君は

「ありがとうございます、コメット様。でも、もういいんです。私はもう

『殿下のお役に立ちたい』という夢をかなえましたからー。それに殿下を

助けた時にもう星力を使い果たしてしまってー。さっき作ったティンクル

ラーメン、食べてもいいですか?」

とティンクルホンを返しながら言った。

「ええ。もういいわよ。お疲れさま」

「では失礼します。さようなら」

「さようなら」

「カロン〜!」

「お姉ちゃん待って〜」

 そう言って離れていくカロン君の背中がとても大きく見えた

6/16 11:00 (ケニア現地時間:日本時間17:00)

 それからリタイヤする人は誰もいなかった。わたしはジョン君のこころの声を

聴いていた。

(私はケニアの首都ナイロビにあるナイロビ大学の医学部で解剖学の講議

を受けていた。今年入学したばかりでまだ専門的な授業は少ししか受けて

いなかったが、コメット様に助けられて以来の長年の夢がかなえられ、と

ても嬉しく思っていた。昼休みにマンゴージュースを飲んだ後、午後に心

理学の講議を受け、レポートの提出を求められた。その後の社会学の講議

が終わってすぐ、携帯が鳴った)

「ジョンです。え?すぐ行きます」

(家庭教師のアルバイト先の家からだった。自分が教えている小学校8年

生で13才の少年が急に高熱を出し、胸が苦しくなっているとのことだっ

た。

私は急いで自転車に乗り、少年の家を目指した。彼の家はナイロビ郊外の

高級宅街にあり、冷房完備でプール付きの広大なものだった。ケニアでは

学校に行く子供達の割合が随分増えたが、家庭教師をつけることの出来る

経済的余裕のある家庭はまだほんの一握りだった。10分程で家の門の前に

来ると、インターホンを鳴らし、ガードマンに門を開けてもらって中に入

った。それから再び自転車に乗って玄関まで行き、召使いの案内で家の中

に入った)

「すみません。今日は先生に来て頂く日でしたのに〜。カイト様も楽しみにして

いらしゃいました。昨日まではお元気でしたのに〜」

「そうなんだ」

「こちらです。どうぞ。」

「こんにちは。ジョンです。失礼します」

「よく来て下さいました。今朝から咳や微熱が出て、最初は風邪だと思っていた

のですが、少し前から急に熱が高くなり、苦しがって〜。」カイト君の母親が心配そうに言った。

(早速熱を測って見ると、40度近くもあり、脈も速く、胸が苦しそうだっ

た)

「すぐに入院して詳しく調べた方がいいと思います。うちの大学病院に行

きましょう」

「お願いします」

(私達は車で病院に行き、カイト君は様々な検査を受けた。18時頃主治医

から連絡があった)

「ジョン、どうやらカイト君はSARSらしい」

「え?コロナウイルスが原因のあの病気ですか?」

「ああ。診断が確定するのは明日になると思うが、直ちに隔離病棟に移す。君も

来てくれ。君も感染している可能性があるので、念のため検査を受けて欲しい」

「わかりました」

(私は主治医の言葉にショックを受けた。SARSは重症急性呼吸器症候群

といって6年前に発見されたウイルス性の肺炎で、当初は原因不明とされ

恐れられてきたが、間もなく新種のコロナウイルスが原因とわかり、昨年からワクチンの生産も始まった。しかし、世界中で治療薬の開発が試みら

れているものの、まだ特効薬はなく、時には死に至ることもある要注意の

病気だった。香港や中国等から世界中に広がり、アフリカでは患者数は比

較的少ないものの、それでもこれまでに数千人の患者が報告されていた。

だが今はカイト君を助けることの方が先だ。私はカイト君と一緒にSARS

専門病棟に入り、検査を受けた。病室に戻って見るとカイト君はまだ苦し

そうだった。それを見て、自分は医者のたまごなのに、どうすることも出

来ないなんてと思った。その時、コメット様のこころの声が聴こえた!)

(「ジョン君。あなたは愛力が使えるはずよ。それでカイト君を治してあ

げて」)

(「コメット様!で、でも、私はまだ愛力を使って治療したことなどあり

ません」)

(私は約2年前、「輝きの元である方」と出会い、愛力を使うことが出来

るようになっていた。しかし、まだそれを使って病気を治したことはなか

ったし、そんなことが出来るのかさえ知らなかった)

(「だいじょうぶ。あなたの夢は『医者になって病気の人を一人でも多く

治すこと』のハズよ。わたしの言う通りにすれば、きっと出来るわ。自分

の夢を信じて」)

(「コメット様〜わかりました。やってみます」)

(私はバトンを出してアガペー変身(ノーマルバージョン)すると、バト

ンをカイト君に向けて「輝きの元である方。私に力を下さい。あなたの持

っている力を私の愛力に変えて。アガパオー!」と言った。すると、バト

ンの先端の星からオレンジ色の光が出てカイト君を照らした)

(「光を胸のあたりに向けて、範囲を少し狭めて。それから、カイト君の

輝きを感じて『いっしょにいて』みて。きっと今までより長く愛力を照射し続けられるはずよ」)

(「でも〜まだ今一つよくわからないんですけど」)

(「だいじょうぶ。わたしが『いっしょにいて』あげるから。わたしがあ

なたの病気を治した時のことを思い出して」)

(私は目を閉じ、当時のことに想いを馳せた。すると、こころが落ち着き、

とてもあたたかいものを感じた。私の中で何かが変わった。私はカイト君

と「いっしょにいる」のを感じた。そしてコメット様が「いっしょにいる」

のも〜。それと同時にコメット様の姿も見えるようになった。とても心地

良かった。ふとカイト君を見ると、さっきまで苦しそうだったのに、い

つの間にかすやすやと寝ていた。熱も下がってきているようだ。私は胸を

なでおろした)

(「良かった。回復してきたようね。後一時間もすればすっかり元気にな

るハズよ」)

(「ありがとうございます、コメット様」私はある決心をして言葉を続け

た。

「コメット様。カイト君が完全に治ったら私はリタイヤしたいと思います。

私はコメット様に助けていただいて、自分の夢をかなえることが出来まし

た。これからは地球の人達にも医者として認められるよう、頑張りたいと

思います」)

(「そう。ちょっと残念な気もするけど〜でも良かった。ジョン君がこん

なに立派になってくれて今とっても輝いているよ。わたし、とってもう

れしい」)

(そう言われたコメット様の目にはなみだが光っているように見えた

6/20 10:00

 わたしの言った通り、カイト君は一時間程ですっかり元気になり、翌日には退

院した。カイト君はSARSであったことがわかったものの、幸いにもジョン君を

含め周囲の人々に感染を広げることはなかった。ただ、どこで感染したのかは現

在調査中だった。翌日みんなで集まった時、ジョン君がティンクルホンを返して

きた。これで残るのは4人になった。最終日、100名の参加者達が再びレセプシ

ョンホールに集まってきた。 時間になるとわたしは所定の位置に着いて口を開い

た。

「みなさん、おはようございます。いよいよ今日が最終日です。これまで

ここにいる、ジャンさん、テレサさん、ミラさん、ニック君の4人が残っ

ています。12時まで残った人が優勝です。後少しなのでみんな頑張って下

さいね〜。ではまずこれからこの4人にこれまでの事などを一人10分以

内で話して頂きます。ジャンさんからどうぞ〜」

「国際飢餓対策機構のジャンです。まず、この場を借りてみなさんにお願

いを申し上げたいと思います。実はさっきジュネーブから連絡があって、

南アフリカの穀倉地帯の近くでバッタの大発生が確認されたそうです。群

れの規模は通常の10倍以上、20億匹以上にもなるそうで、今いる所のエ

サを食い尽してどうやらもうすぐ北に向って移動を始めるらしいのです。

もしそうなったら、今後数週間から一月位で南アフリカを始め、アフリカ

中の作物が壊滅的な打撃を受けると思われます。今国連にも要請して緊急

の対策会議を開いてもらうことになっていますが、一刻も早く手を打つ必

要があります。それでコメット王女を始め、ここにいるみなさんに是非力

を貸して頂きたいと思います」

「あ〜らそんなの、飛行機で空から殺虫剤でもまけば終わりじゃない」

「メテオさん、そんなのバッタさんがかわいそうだよ。それより

「そんな事をしたら、みんな逃げてしまってそれこそバッタの移動を早め

てしまうことになると思います。何とかバッタの移動を止めることが出来

れば〜」

「それなら出来ると思いますよ、ジャンさん」

「ほんとうですか」

「ええ。星力や愛力さえ十分集まれば、バッタさん達が移動出来ないよう

にすることは出来ると思います。ジャンさん、これからここにいるみんな

と、星国の人達から集めた星力や愛力を地球に送るから、バッタさん達の

いる正確な位置を教えて欲しいの。それから地球の人達にも呼び掛けて愛

力や星力を集めましょう。

もちろん、これまで集めた愛力や星力も使った方がいいわ」

「わかりました」

「みなさん、これから星力や愛力を集めて地球に送りたいと思います。メ

テオさんはカスタネット星国に、ミラさんとカロン君はタンバリン星国に、

協力を呼び掛けて下さい。多分、20分位で集まると思うから、集まったら

ティンクルウインドウを通して送りたいと思います。みんな、用意はい

い?」

ハ〜イ!みんなの元気な声が会場内に響き渡った。

10:20

 会場内には星力や愛力が集まった大きな光の球が作られていた。

「ひめさま、どうやらカスタネット星国からも届いたようだボー」

 その声と同時に大きな緑色の輝きが光の球の中に吸い込まれた。

「コメット様、タンバリン星国からも届きました」

 直後にひときわ大きい黄色い輝きが吸い込まれていく

「そろそろいいようね。ではみなさん、これからティンクルウインドウ

を出したいと思うので、あの輝きの正面に一斉に星力等を照射して下さい。

いち、に、のさん!」

幾千億の星の子達。地球の子達。そして輝きの元である方。

キラ星の輝きを。あまたの力を。そしてあなたの愛力を。どうかわた

し達の星力に変えて。エトワール!シュテルン!ステラ!アガパオ

ー!

 みんなは一斉にバトンなどをふった。すると、白い大きな輝きの前に更に大き

なティンクルウインドウが現れた。

「コメット王女。地球の人達から集めた星力や愛力の準備が出来ました。

今群れの近くに待機させています」

「ありがとう。あ、それから、バッタビトさん、いる?」

「はい、ひめさま。地球に行く準備は万端なのであった!」「あった、あ

った!」

 隊長以下、たくさんのバッタビトさんが顔を出した。

「じゃあ、さっきも話したようにこの輝きと一緒に地球に行って、これを

地球にある輝きと一つにした後、バッタさん達の所に届けて欲しいの。そ

してバッタさん達が飛べなくなっていたら、知らせて欲しいの」

「了解なのであった!ではこれからみんなであの輝きの中に入るのであっ

た!」「あった、あった!」

 バッタビトさん達が白い輝きの中に入ったのを確認するとわたしは言った。

「ではこれからこの輝きを地球に送ります。今度はあの輝きに一斉に星力

等を照射して下さい。いち、に、のさん!」

幾千億の星の子達。地球の子達。そして輝きの元ナある方。

キラ星の輝きを。あまたの力を。そしてあなたの愛力を。どうかわた

し達の愛力に変えて。エトワール!シュテルン!ステラ!アガパオー!

 わたし達がバトンをふると、白い大きな輝きがティンクルウインドウに吸い込

まれていった。しばらくして白い大きな輝きはバッタビトさん達の導きでバッタ

さんの群れの近くに来ると、地球の人達からの星力と一つになり、直径4 km

の群れをすっぽり覆った

「ひめさま!バッタ達はもう飛べなくなっているのであった!作戦は成功

したのであった!」「あった、あった!」

 メモリーボールにバッタビトさん達と、既に飛べなくなっているバッタさん達の様子が映し出された。

「ありがとう」

「ほ、ほんとだ!これは素晴らしい!」

 それを見たジャンさんもとっても嬉しそうに言った。会場内からも一斉に大きな拍手が鳴り響いた。

「ジャンさん、良かったね」

「コメット様。どうもありがとうございました。私はこれでリタイヤした

いと思います」

「え?だって後一時間もしないうちに終わるのに〜」

「もういいのです。私はコメット様やみなさまのお陰でこの大会における

自分の使命を果たすことが出来たと思いますから〜。それに私もさっきの

で自分の力を使い尽くしましたので

「わかったわ。これでもう自由に食べることが出来るわ。お疲れ様」

 ジャンさんの顔はとっても輝いていた

12:00

 ついに12時になった。わたしは優勝した3人のひとをみんなの前に立たせる

と言った。

「みなさ〜ん。これで大会は終わりです。テレサさん、ミラさん、ニック

君、この3人の人が優勝しました!おめでとう〜!!」

 会場内は大きな拍手と歓声に包まれた。

「それから、これが優勝した人達への賞品です」

 わたしがそう言うと、ティンクルウインドウから3つの白く光る大きな球が現

れた。

「幾千億の星の子達。キラ星の輝きを、そしてあまたの力を。どうかわた

しの星力に変えて。エトワール!」

 わたしがバトンをふると、3人は白い輝きに包まれた。

「これできっと自分の夢をかなえることが出来るわ。あ、それから、もう

自由に食べていいのよ。せっかくだから、テレサさんからみんなに一言話

してくれる?」

「どうもありがとうございました。みなさんの、そして特にマリヤ、あな

たのおかげで優勝することが出来ました。とても嬉しいです。それから、

コメットさん、この大会の間じゅう、とっても楽しかった。本当にどうも

ありがとう!私の夢はまだかなえられていません。貧しい人はまだまだた

くさんいるしだからこれからもそれに向って努力し続けたいと思います。頂いた星力はそのために使っていきたいと思います

「ミラです。わ、ワタシ〜本当は優勝なんてとっても出来ない、と思って

いました。今でも信じられません。私が優勝出来たのは、コメット様、テ

レサさん、織恵さん、そしてカロンなどたくさんの人に助けて頂いたお陰

です。私は初め、『自分のこれまでのイメージを変えたい』と思ってこの

大会に参加しました。でもコメット様のおかげでもっといい夢を持つこと

が出来ました。コメット様。何度も助けて頂いて、ありがとうございまし

た。テレサさん、私はあなたから本当にたくさんのことを教えてもらいま

した。あなたに出会えて本当に良かった〜。ありがとう。それから織恵さ

ん、こんな私と『ほんとうの友達』になってくれてどうもありがとう。あ

なたのことは一生忘れないわ。そしてカロン、あなたからも家族の大切さ

を教えてもらったわ。こんな弟を持てて幸せに思います。私もまだ自分の

夢をかなえたとは思っていません。頂いた星力は殿下を始め、タンバリン

星国の人達のために使っていこうと思います」

「ニックです。私も優勝出来るなんて、思っていませんでした。途中で何

度かリタイヤしようと思ったことがありますが、その度にコメット様やそ

の他の方に助けて頂きました。ありがとうございました。優勝出来て、こ

れからの料理ビトとしての厳しい修行を乗り越える自信がつきました」

「ニック!よくやった。今日からおまえを一人前の料理ビトとして認める。

今日からは星力を使って修行を行うぞ」

「ステラ料理ビト長!ありがとうございます!でも私はまだ一人前の料理

ビトになれたとは思っていません。でもいつか、きっとなれると思います。

頂いた星力はそのために使っていきたいと思います」

「ではみなさん、3人に改めて拍手をお願いします」

会場内は再び大きな拍手と歓声に包まれた

13:00

 それからバーバラさんとチャックさんの結婚式がパウロ大司教の司式でセンタ

ーチャーチで行われた。純白のウエディングドレス姿のバーバラさんはとっても

キレイだった〜。大会参加者を始め、たくさんの人々から祝福され、2人ともと

っても嬉しそうだった。

 その後みんなでレセプションホールでお昼を食べながら、わたしはツヨシ君と

ネネちゃたんに聞いてみた。

「ねえ、ツヨシ君、ネネちゃん、断食大会楽しかった?」

「うん、楽しかった。優勝出来なかったのはちょっと残念だけど〜。でも僕も最

後に夢をかなえることが出来たんだ。ジャンさんがみんなに助けを求めてから、

ジャンさんの夢が僕の夢にもなったから〜」

「私もとっても楽しかった。決勝まで行けなかったけれど〜。私もジャンさんの

夢が私の夢になったわ。でも、私にはまだかなえていない夢がたくさんあるの。

みんなの話しを聴いていて、夢をかなえることも大切だけど、夢に向って最

後まであきらめずに進み続けることも同じ位大切だと思うわ」

「フーン、そうなんだ」(わたしはそう言いながら、また来年もやってみたい、そう思った―)

第3章「星国のワールドカップ」に続く―

 

 

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