コメットさんの日記(最新版) 第5章「動画ビト」

主な登場人物:

コメットさん:13才。ハモニカ星国の王女。「瞳に輝きを持つもの」と

されるタンバリン星国の王子を探しに地球に滞在中。バトンによって

「星力」を使う事の出来る「星使い」でもある。

コメットさんのお母さん:ハモニカ星国の王妃。初代コメットさんでもある。

ヒデさん:23才。ハモニカ星国のアニメーションの動画を描いている

「動画ビト」。今はコメットさんの地球での様子をアニメにした「コメ

ットさま☆」の動画を描いている。

ヒゲノシタ侍従長:コメットさんの少々口やまかしいお目付け役。

マーズさん:48才。ハモニカ星国の「輝きチェックビト」の長。「コメット

さま☆」製作責任者。

 

11/15  21:00

 夜、わたしはテレビでアニメーション映画を観ていた。それは「カリオス

トロの復讐」というタイトルの、有名な映画監督の作品の続編で、前作で伯

爵との政略結婚から救い出されたカリオストロ公国の王女が、伯爵のおいの

妨害を乗り越え、怪盗や色々な人の助けを借りながら園丁のおいと遂には幸

せな結婚をする、というものだった。感動したわたしは、(自分もあの王女の

ような素敵な結婚をしたいな)と思うと同時に、星国でも見ていたアニメー

ションというものがどのようにして作られているのかにも興味を持った。そ

んな時、ティンクルホンが鳴った。母からだった。

「コメット。実はあなたにお願いがあるの。『動画ビト』があなたに聴きたい

ことがあるそうなのよ。前にも言われたことがあったのだけれど、その時は

断わっていたのよ」

「どうして?」

「ごめんなさい。実は…」

と言って話し始めた母の言葉を聴いて私は驚いた。自分が地球に来てからの

行動が、30分位のアニメーション番組にまとめられ、毎週ハモニカ星国で放

送されていたのだ。

「そんなの、きいてないよ〜」

と思わず言ってしまったわたしに母は、

「ほんとうはすぐにあなたに知らせて了解をとるべきだったとも思う

けれど、地球に来たばかりのあなたがこのことを知ったら、意識して、あなたらしい行動がとれなくなってしまうと思ったものだからでも

ね」

「姫様〜。みんな毎週姫様の番組を心待ちにしておるのです。わかって下され」

「ヒゲノシタ」

「姫様が地球に行ってしまわれてから、星国の民は姫様のお帰りを心待ちに

しており、その身を案じている者もおります。そこで、皆に安心してもらう

ために、このメモリーボールの映像やここにいる取材ビトやカゲビトから集

めた情報などを基に姫様の地球でのご様子を皆に知らせておるのです。毎週

姫様のご様子が見られるとあって皆大喜びです」

「そういうことなのよ。でも、あなたはもう十分成長したわ。これから

はあなたが決めていいのよ」

「わかったわ。お母さま。今止めたらみんなが悲しむでしょうから…

も、一つお願いがあるの。その番組、わたしにも見せて」

「そうそう。忘れるところだったわ。実はその動画ビトがあなたの番組

がどうもうまく出来ない、って言っているのよ。色々な人に相談したけ

れど、原因がわからないので、あなたに直接聴きたい、と言っていたわ。

もちろん、今までの番組も見せてくれるハズよ。だから会って欲しいの。

もう出発したから、もうじきそちらに着くと思うわ」

「わかりました、お母さま」

「それではよろしくたのむわね」

 そう言って電話は切れた。

 

 それからしばらくして、わたしが自分の部屋から外を観ていると、星のト

レインがやってくるのが見えた。約3分後、カッコイイ青年がわたしの部屋

に入って来た。背はわたしよりずっと大きく、190 cm位で、イマシュンやケ

ースケとも違う「輝き」を持った顔をしていた。

「コメット様。はじめまして。動画ビトのヒデと申します。以前から是

非一度お目にかかりたいと思っておりましたので、光栄に思います」

「はじめまして。来てくれてありがとう」

「おかげ様で、姫様の番組であります『コメットウま☆』は平均視聴率

98%、輝きランキングでもダントツ一位でございます」

「『輝きランキング』って?」

「あ、これは失礼いたしました。地球では視聴率が重視されているよう

ですが、星国では視聴率よりも『その番組からどれだけ輝きを感じた

か』をモニター調査して毎週発表される『輝きランキング』の方が大切

にされています。この『輝きランキング』が低い番組は視聴率が高かっ

たとしても、休止されたり、内容が変更されたりすることがあるので

す」

「そうだったの。知らなかったわ。ところで、わたしに聴きたいことっ

て?」

「それをお話する前に、まず、星国のアニメ番組がどのようにして作ら

れているかをお話ししたいと思います」

そう言って彼は細くて長いエンピツのようなものを出し、次にそれを振って

白い紙のようなものを出した。

「これはティンクルペンといって、姫様のティンクルバトンに相当する

ものです。星国では、これに星力をため、原画ビトが描いた原画に基づ

いて星力でこのティンクル・セルに絵を描いていきます」

 わたしが見ていると、たちまちわたしの顔が現れ、それに色がついた。そ

れから数分でパジャマ姿のわたしの絵が出来あがった。

「すご〜い!」

とわたしが感心して言うと、

「姫様。これからが大変なのです。次にこれに動きをつけなければなり

ません。動きに合わせて少しづつ姿勢を変えた絵を何枚も描き、それを

こうやると、動いて見えるのです」

 ヒデさんはティンクル・セルの束を取り出し、それをティンクルペンの力

でめくりながらそう言った。

「わかったわ。わたしがあくびをしている所ね。一回の番組で何枚位描

くの?」

「地球では1秒当たり2枚位の絵が必要とされているそうですが、星

国ではその倍の1秒当たり約4枚の絵が必要です。よって、大体6000

7000枚位になります」

「そんなに!」

「それだけではございません。次が一番大変なのです。こうして出来た

ティンクル・セルは『輝きチェックビト』によって『輝きチェック』を

受けなければならないのです」

「輝きチェックビト?」

「輝きチェックビトはティンクル・セル等からの輝きをチェックするホ

シビトで、その長は番組製作の責任者です。地球では『監督』と呼ばれ

る人がそれに相当するようです。姫様、この2枚の絵を御覧下さい」

そう言って動画ビトは一見全く同じに見える2枚の絵を見せてくれた。

「この絵の違いがおわかりになりますか?」

「わたしが星力を集めている所ね。同じに見えるけど。」

「よくご覧になって下さい。今の姫様ならおわかりになると思います」

 

わたしは少し注意して観ていたが、すぐにあることに気付いた。

「わかったわ。この左の絵は右に比べて輝きがない」

「さすがは姫様。その通りです。この左の絵が輝きチェックビトによっ

てボツにされたもの、右がOKとされたものです。このように、ボツに

なるものもあるので、実際には800010000枚位描いています。動画

ビト一人当たり5001000枚位です。私も最初の頃はなかなかOK

出なくて苦労しました」

「一枚描くのに、どれ位かかるの?」

「私は今は週に1000枚描いていますが、大体3〜4分ですね。最初の

頃は倍位かかってました」

「一人で1000枚も!大変ね

「こうして出来た絵を今度は撮影ビトが撮り、映像を作ります。そして、

これに声マネビト、音楽ビトなどがセリフや音をつけていきます。地球

ではプレスコといって、映像を作る前に音を入れて作る場合もあるよう

ですが、星国では全てこのアフレコ方式をとっています。この時また輝

きチェックが入り、その後試写をして最終の輝きチェックをしてようや

く完成となります。おわかり頂けましたでしょうか」

「大変なお仕事、ご苦労さま。よくわかったわ。でもあなたはどうして

地球のアニメーションのこともよくわかるの?あ、そうか、前にも地球

に来たことがあるのね」

「おっしゃる通りです。5年くらい前に一度、1年間地球に留学して勉

強しました。本題に入りますが、このようにして番組をつくっているう

ちに、私は次第にある違和感を覚えるようになりました。輝きチェック

ビトや色々な人に相談したのですが、なぜかはわからず、とうとう私の

描いた絵の大半が輝きチェックを通らなくなってしまいました。今から

これまで放送された番組をお見せしますから、私がどうして違和感を感

じたかお教え下さい。姫様なら、きっとおわかりになると思いますか

ら」

「それはとにかく見てみないと、わからないわ」

「わかりました」

 ヒデさんはメモリーボールを取り出すと、ティンクルペンを振って、わた

しの番組を映してくれた。

 わたしは夢中になって自分が映っている番組を観た。とても良く出来てい

て、おもしろかった。感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。

 3つ位見た後で、動画ビトはおそるおそる

「姫様、いかがですか」

と聞いてきた。

「とても良く出来ているわね。ありがとう。感動したわ」

「ありがとうございます。そうですか、ではこちらをご覧になって下さい。

今度はきっとおわかりになると思いますから」

 わたしはさっきより注意深く映像を観た。すると、(何かちがう)と思い始

めた。もう3つ位観た所で、わたしはようやく気づいた。この番組があまり

にもよく出来すぎていたことにたとえば、わたしがミラさん達と一緒

に星力を集めに行った時、メテオさんからわたしが間違った事をしてい

る、と言われたシーンがカットされていたのだ。改めて他のものも観て

みると、わたしの失敗や間違った事をしたシーン、悲しみに沈んでいる

シーン等のほとんどがカットされていた。これでは自分の本当の姿が伝

わらない

このことを伝えると、ヒデさんは

「やはりそうでしたか!よくおわかりになりましたね!姫様に観て頂

いて本当に良かった!」

と感激したようだった。

「でもわかるわ。その気持ち。だってわたしはハモニカ星国の王女です

もの。きっとわたしのことを出来るだけ良く描こうとして無意識のうち

にしていただけなのよ」

 そうわたしが言った時、メモリーボールに50才くらいの男性が写し出さ

れ、

「姫様。申し訳ございません。本番組の輝きチェックビトの長、マーズと

申します。実はこの番組は輝きチェックの他に『輝き自然度チェック』をす

るはずだったのですが、ヒゲノシタ侍従長の御命令で『輝き自然度チェック』

をしないことになったのでございます。その結果、このようになってしまい

まして

と遠慮がちに言うのが聞こえた。

「『輝き自然度チェック』って?」

「それは、その番組からの輝きが不自然で無いか、設定やストーリーに無理

がないか、事実を伝えているか等をチェックする事でございます。先程姫様

が本番組をご覧になって『違和感』を覚えられたのも、本番組の輝き自然度

が十分でなかったためと思われます」

「これ、わしのせいにするな」とヒゲノシタ侍従長が突然顔を出した。

「ヒゲノシタ!」

 

「姫様。これにはいろいろとワケがありまして

と言うヒゲノシタの声をさえぎって、わたしは

「マーズさん。これはハモニカ星国の王女としてのお願いです。これか

らはみんなにわたしの本当の姿を見せてあげて」

と言った。

「かしこまりました。既に放送されたものも作り直させます」

「しかし、姫様

「ヒゲノシタもいいわね?」

「は、ハイ、姫様がそうおっしゃられるのであれば

 こう言って2人の映像は消えてしまった。

「ヒデさん。これでもう大丈夫よ」

とわたしがちょっとイタズラっぽく笑いながら言うと、ヒデさんは

「本当にありがとうございました。この御恩は一生忘れません」

と目を少しうるませながら嬉しそうに言った。

「あんな素敵な番組を作ってくれていて、本当にどうもありがとう。こ

れからもがんばってね」

「ハイ、頑張ります」

「最後にひとつお願いがあるの」

「ハイ、何でしょうか」

「実は

わたしがそれを話すと、ヒデさんは胸をはって答えた。

「それなら簡単に出来ます。すぐに準備をいたしますので」

それから約10分後、わたしの生の映像がハモニカ星国じゅうに送られた。

「星国の皆さん。わたしの番組を観ていてくれてどうもありがとう。地

球では楽しいことばかりではなく、悲しいことやつらいこと、失敗した

り、間違ったことをしてしまうこともあるけれど、たくさんの人から輝

きをもらって、元気に暮らしています。いつになるかわからないけれど、

きっと王子様を見つけることが出来ると思うから、待っていて下さい

ね」

 

11/17

 ヒデさんが帰っていった後、しばらくして宅急便でメモリーボールが送ら

れて来た。再生してみると、わたしの番組を作り直したものだった。映像の

中のわたしは以前よりも自然に、より輝いて見えた。同封された手紙には、

その後、ヒデさんの絵が全て輝き&輝き自然度チェックを通ったことが書か

れてあった。

第6章「わたしはだれ?」に続く

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