唇を守れ
次の朝、標準品が到着し、分析した結果、口紅から検出されたピークとピタリ
と一致し、またその濃度もはっきりした。
（0.01%か。おそらくかぶれを引き起こすのには十分な量だろう。これが
人の手に渡らなくて良かった）
「主任、吉田主席査察官からお電話です」
「あ、もしもし。私だ。あのピークと標準品のピークが一致した。あれは
Red413に間違いはない」
「そうか。今店頭からの回収作業を進めているが、エトワール（株）から
の十分な協力が得られなくて困っているんだ。社長が自主回収を拒否して
いてね。今日中には終えたいんだが～。まあ、少し前に製造工場から例の
サンプルと同じロットのものを小田切査察官に持たせてそちらに向かわせ
たから、それからRed413が検出されれば協力しないわけにはいかないは
ずだけどな」
「だから彼がこっちに着き次第、サンプルを分析して、社長に動かぬ証拠を突き
付けて欲しい、ってことだろ？」
「その通りだ。多分1時すぎにはそちらに着くと思うのでよろしく頼む。
他のロットや店頭から回収したものとかは宅急便で送るから着くのは明日
になると思う」
「わかった。じゃ～また後で」
「山口さん。1時すぎにサンプルが到着するそうだから、着いたらすぐ分析出来
るように準備しておいて欲しい。きっとRed413が検出されるハズだ」
「わかりました」
輝きの求道者達がお昼をすませた直後、小田切査察官が訪ねてきた。サンプル
を受け取って早速分析してみたが、結果は意外なものだった。
「何？Red413が検出されない？！―本当だ。他のサンプルは？」
輝きの求道者はピークが記された白い紙を観ながら言った。
「今の所小田切査察官から頂いた、10検体全てそうです」
（これはどういうことだ～吉田査察官に相談しなければ～）
輝きの求道者はすぐに吉田主席査察官の携帯に電話をかけた。
「あ、もしもし。私だ。実は困ったことになった。小田切査察官からもらっ
たサンプルからRed413が全く検出されないんだ」
「何！本当か？」
「ああ。１０サンプル全てだ。原因はまだわからない。ところでエトワールの社
長は自主回収に応じたかね」
「いや。説得を試みているが、
『あの製品にはRed413は使っていない。何かの間違いか、流通段階での問題だろう』
と言っていて、回収命令を出さない限りダメだと思う。僕は君さえ良けれ
ば回収命令を出すよう局長に進言するつもりだけど、どうする？」
（ウ～ンー）
輝きの求道者は迷った。普通はこのような場合、会社のイメージダウン
を避けるため回収命令が出される前に会社がその製品を自主的に回収する
と同時に製造・出荷も停止するのだが、この会社の場合は自社の製品によ
ほど自信があるのか、店頭から抜き取った製品からRed413が検出された
ことを伝えても、自主回収に応じようとはしなかった。まだ被害者が出て
いないこともあるかもしれない。しかし、もしこのまま対応が遅れて被害
者が続出するようなことになれば大きな社会問題になる。一方、今の段階
では回収命令を出すのに十分なデータが揃っているとは言い切れない。も
し、会社の言い分が正しいにもかかわらず、回収命令を出してしまったら、
その会社に大きな損失を与えるのみならず、十分な根拠なしに回収命令を
出した責任を問われるだろう。―
読者の方々へ：ここから輝きの求道者の決断により、エンディングが２つに分れます。あなたが輝きの求道者だったらどうすると思われますか？以
下の２つの判断のうちそう思われる方に最初にお進み下さい。
■この作品は簡易創作グループのホームに提出されたものです。よろしければ、技能向上のためのご意見をください。
copyright 2002 輝きの求道者all rights reserved.
